鹿友会誌(抄)第四十四冊 特別発刊「鹿角出身産業家列伝(第一輯)」 |
△淺野末太郎氏(鉱業家) 最近余は陸軍戦備課某氏と会見の礼状発送中に此の事を書いて出した、夕刻「マダガ スカル」の○○○○○と港にて我特殊攻撃隊が英艦を屠ったとあったので早くも軍は思 ひを茲に致して居るものかと想像したが果して如何なるものか短期に目的を達せまいが、 此の私の想像が実現した場合こそ我邦は万邦に比類なき盤石の地歩を得るに至り、世界 中持てる国として米国と拮抗し得る日の来らん事を念じて止まないものなり。 今や印度は独立を叫んで居る印度の独立は廃退一途にある、英国の衰微を来す最大素 因となるべき事は左の一事を以ても知らるべし(最近迄印度より発荷せるもの) 小銃弾薬一億万発、砲弾四十五万発、火薬百屯、信二十五万、軍靴百六十万足、毛布百 五十万枚、靴下二百万足、黄麻袋莫大 又別の方面から見て英国は「ニュージーランドインド」「セイロン」から左の如き輸 入して居った。 マニラ麻木材キニーネ一○○○%、ゴム九六%、錫八○%、タングステン八%、満俺七 二%、鉛六○%、雲母五二%、米八五%、小麦一三%、茶九五%、羊毛六一%、チーズ 六三%、バター四六%、豚肉四ニ%、牛肉二四%、羊肉七八% 此の数字を見る丈けでも「スエズ運河」の閉鎖と喜望峰の迂回路の遮断とは余り英国 な窒塞せしむるの外なくてなんであらうか、况して万一枢軸強化の御礼として南亜を掌 握する様になったならば金銅の有数地失ひ全く英国は加奈多に依存し僅かに命脈を保つ に過ぎぬであらう。 総て一国を押へるには辺隣丈けでは効果がない、英国を顛落せしむるには倫敦をやら ねばならぬ、米国を押へるには西海岸を襲撃したのでは太平洋安泰となるも神経を押へ たとは云へぬ、即ち喜望峰から「ニューヨーク」「ワシントン」迄本拠地を行かねばな らぬ。 今や枢軸は東西握手せんとしつゝあり、ソ連が聊か衰退せば後顧の憂がない。 独伊の不足を東亜より補給し一挙に相携へて大西洋を横断せる潜艦を強化し、各船艦 を根こそぎにして米東海に殺到するも敢て不可なきにあらざらん。 斯くして観れば世界戦争の構想たるや実に雄大にして我等乾坤一擲の思を茲に致し、 再び外冠のなき礎石を築かねば止まないものであらねばならぬ。 如斯資源たるや、我等も目的物の最も重大なるものにして実に世界の動きは衣食住の 問題にして窮局は此点にありと思はねばならぬと思へば鉱業資源獲得は正に食料資源と 相併行して世界を制覇し得ると云ふも過言にあらざらん。 併し天然資源には遂に限りあり、文化の発達により不足分は相次で代用品に換へらる ゝも遂に行詰まざるを得ない事になりはせまいか。 大谷光瑞は自然科学により太陽空気大洋に需めねばならぬと云われたのも大に味ふべ き言にして吾人限りあるべき鉱業資源の消費を常に心すべきであると云ふ、一言を以て 私の今回の話題の終りとする次第なり。 附記 右は淺野氏の持論を以て氏の経歴談に代へられたもの、蓋し吾人の求むる所は他にあ りしも、〆切の切迫を以て、之れを以て氏の活動の存在を会員に告くと云々。 |