鹿友会誌(抄)
「第四十一冊」
 
△思ひ出の記事
○鹿友会思ひ出のまゝ − (大正から昭和まで) −
◇育英事業の件
 鹿友会の重大使命である育英事業に関しては、全会員の等しく考へさせらるゝ事で、要は財政問題 であって、仲々困難な問題である。然し面倒だからといふて、現状の儘でゐては何時になって発展 するやら、全会員が一層真剣に考究し協力善処すべきである。此機会に具体的私案を披瀝したい と思ふが、紙数に限りある故、またの折に譲ることとして、此処には抽象的ながら卑見の一、二を 述べて見たい。
 
◇一、誘導機関として相談部設置の件
 地方と東京とを問はず、同郷人であれば誰でも、鹿友会本部を相談相手とすれば、大抵の用件は 安心して相談の出来る様、相談部を設けたならば、お互便宜で親密を増す事と思ふ。殊に地方青年 男女学生諸君にとっては、此上ない有益な善導機関だと思ふ。斯かる誘導機関を通じて、常に会に 接近せしめる事によって、自然に鹿友会の指導精神を理解させ、親しみをもたせ、又先輩の謦咳に 接しては激励指針を授けらるゝならば、青年学生諸君が必ずや欣び勇み、勉励之れ努めることならん。 延いては郷里の父兄は、皆安心裡に子弟の学業に就業に鹿友会を信じ依頼するに相違ないと思ふ。 而も其父兄が篤志家であれば、育英事業の為めには一層の援助を与へらるゝ機会も多からんと推考 する次第である。
 
◇二、奨学資金調査部設置の件
 鹿友会の永続事業である育英事業達成の為めには、幹事のみに責任を負はすべきでない。二三年乃至 五年の一定期間中委員制度による奨学資金調査部を設け、主して資金調達を計る役割であって、本会事業 の趣旨成案を作成して、篤志家殊に郷土とは重要な関係にある小阪、尾去澤両鉱山、其他関係事業会社に 呼びかけ、極力運動を継続するならば、他日必ずや相当反応あると信ずる、個人的交渉では労して効なしと 思はる。之れが実行に移すにはどうしても地方委員、地方有力者との協力に俟つより外はない。其の為め には、絶えず鹿友会本部と地方会員、有力者との間に緊密なる連絡を必要とするわけである。此所に 本会に相談部並に資金調査部設置の意義が生じて来るのである。
 以上は私の回想と希望の一端を申述べた次第である。乞ふ諒せられよ。
 終りに会員諸子の御清康を祈って擱筆する。
(昭和十三年二月十一日記)

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