鹿友会誌(抄)
「第三十九冊」
 
△台湾行脚   花輪 奈良野人生
○和歌
 上陸の一歩目に入る島人の 口もがつかせ洗足ながらに
 檳椰子噛みて吐く滓とことこに 汚なきまてに赤く染めゆく
 空を蔽ふ椰子の林の合ひ間より 赤き練瓦の家は見えけり
 重そうな角を静かに動かして 草を眠気に食める水牛
 白き影田面田面にうつしつゝ 低く飛び交ふ白鷺の群
 車捨て道に水牛放ち飼ひ 甘蔗刈る人忙がしく見ゆ
 夜も更けてキヽと鳴く方見詰れば 図々しくも守宮這ふ見ゆ
 綺羅飾り手ふり足ふり奇声揚げ のべつ幕なき島の芝居は
 
○俳句
 新春の空に爆竹響きけり
 爆竹を戸毎鳴らして明の春
 春暁や椰子の葉ずれの冷々と
 春昼や蕃人坂路のぼり来し
 芭蕉葉の大きく揺るゝ春の風
 風光る田面を白鷺飛びにけり
 ヂャンクの帆水に影持つ春日かな
 耕人に今日も風あり砂埃
 
 遠慮なき故郷の話や部屋長閑
 
 行春や海に沈みし島の影

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