鹿友会誌(抄)
「第三十七冊」
 
△十和田湖の山毛欅の実   小坂 小泉隆二
 ………
 山毛欅の実
(一)
 山瀬吹く夜である
 俄雨のようにパラパラと
 トタン屋根を走るのは山毛欅の実か
 ランプの芯を沈めて
 床に横はればはろばろと
 思ひ出さるゝ去にし日の都の事ども
 
(二)
 湖の波の音を聞きながら
 宿の親爺と語る
 榾火をかき立てながら
 親爺世と語る
 山毛欅の実をたべながら
 親爺と語る
 人の世のたのしき事を
 憂きことを
− 昭和九年秋十和田湖にて −

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