鹿友会誌(抄) 「第二十四冊」 |
△父の遺身(短歌) 高橋北鹿 今はなき父の遺身と頬ずれば 金側時計の音のかなしも 亡き骸に魂をも消へと泣き伏しぬ 二十の春の我にしありけり 死に目にも会はざる歎は如何にして 幼き妹イモの宥めで止まんや 高く赤く泣き腫らしたる母の眼見れば 又も知らずに涙にじめり 弟は亡き骸見ても泣かざりき 怒る母の心や悲し 雪残る亡き骸いまし旅宿ヤドの窓より 父の治めし石山ヤマ見るも狂はし 祖父泣けり祖母も亦泣くその祖母は まことでありせば其の場で狂へよ どんよりと曇れる空の雪路を 言葉なくして棺につき行く 真実に親を思ふ我なるに マッチをとりて火をつけよとは 火葬場の谷間を填む紫煙ケムリをば 幾度か見返し涕冷たし 朝まだき母と二人で骨拾ふ 炙さへ嫌えし父なりと話す 思ひ出の旅宿あり谷の残雪も ともに忘れず高畑の町 亡き父のありし昔のことのみが 頭に浮ぶ粉雪ふる夜は
(一九二一、二)
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