鹿友会誌(抄)
「第二十三冊」
 
△亡友追悼録
○川村直哉君
 大舘中学を出ると直ぐ、単身アメリカに赴き、上陸した次の日から、労働に従事して 、鋼鉄の如き意志を以て「一生懸命の生活」を続けて居られた川村直哉君は、不幸、病 魔の冒す処となり、一昨年夏、帰国静養中、本年二月四日午前一時、享年三十六歳の若 き身を以て、永遠の眠に就かれた。
 
 『酔生夢死、故郷にはそんな風の習慣があるやうに思ひます。生れた家の側には、死 んで行くべき墓所があります。その近い道を一生かゝって歩むのは、故郷の人です。家 と墓との間に意義ある道程は無いといったやうに思はれます。無学な私にも、私らしい 生があるべき筈だと思ひます。私は、その生の意義を尋ね廻ってゐるつもりです。』
 
 かう言はれた同君は、他に比すべきものもない程、人生に忠実であった。そして「死 ぬ迄目的に向って努力し」つゝ、その熱愛する故郷に於て、「諸行無常、死なば故郷の 雪の下」の一句を口吟み乍ら、残光雲を打って、遠く世を隔て去ったのである。

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