鹿友会誌(抄)
「第二十三冊」
 
△亡友追悼録
○石井留之助君
 師走の空に雪曇る旧朧十二月三十日、正会員石井留之助君は、予而病気の処、病勢遽 かに革まり、四十六歳の活躍盛期の身を以て、遂に遠逝せられたことは、中堅的人物を 欲する郷里にとって、誠に哀惜に堪へないことである。
 同君は、人並以上に優れた健康の所有者であり、堂々たる体躯に堅忍不抜の精神を蔵 し、事に当って起つ時は、正義に従ひ、断々乎として自己の主張を貫徹せんことに力 むるところ、郷人多しと雖も、誠に得易からざる丈夫であった。
 
 久しきに亘る第二消防組小頭として、常に好く相互の意思を疎通せしめ、又、花輪町 会議員に挙げらるゝこと三回、下通りを代表しては、その発展の為めに真の献身的努力 を惜しまなかった。
 花輪町停車場位置問題に就て、全町議論沸騰し、可否何れとも決せざりし時の如き、 君は裏面に在って、頻りに画策する処あり、遂に町民大会開催に迄漕ぎつけて、与論の 喚起に力めたのであった。
 
 町政益々多端、前途に尚幾多の重大問題が君の尽力に待つべく迫りつゝある今日に於 て、不言実行を以て知らるゝ君の訃音を聞くことは、如何ばかり郷里にとって損失であ らうか。
 老少不定は世の常なりとは言ひ乍ら、尚春秋に富める君の俄に病没せられたるを思へ ば、吾人哀悼の情、切なるを覚えるのである。

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