鹿友会誌(抄)
「第二十一冊」
 
△亡友追悼録
○奈良雄次郎君
 花輪町奈良熊太郎氏の息、志を立てゝ上京、神田商業学校を出て、古河鉱業会社に勤 務し、日光清瀧製銅所に勤務すること二年、後、本社詰となり、営業課員として各地に 出張、主として取引上の交渉に当り、敏腕の称あり、一昨年北海道に出張せし時の如き 、大に其の手腕を認識せられ、前途を嘱目せられしが、惜しい哉、同年夏時分より健康 を害し、居を鎌倉に移し、令兄孝一郎君等も頗る意を用ひて療養に力むる所ありしが、 年を越えて遂に癒えず、昨年五月父母の膝下に帰りて、徐に回春の日を待ちし甲斐なく 、同年九月七日を以て闔焉として逝かれぬ。君、資性温厚快濶にして勤勉、商業学校卒 業の際の如き優等賞を得たり。実社会の人としても、頗る期待せられしに、未だ其の時 を得るに至らずして夭折されしは、返す返すも悼む可し。

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