鹿友会誌(抄)
「第十六冊」
 
△翁の和歌
 山家新年
 雪深き片山里も年たてば 門松立てゝ祝ふ君が代
 渓流
 折々は谷の流れに釣たれて 浮世の垢を洗ひ清めむ
 蛍
 闇の夜をわが世と照す里川の 蛍は風に見えがくれする
 扇
 富士の根を手に握りたる心地して ならす扇の風ぞ涼しき
 雁
 嬉しくも初雁かねの声すなり 音なき人の王章や来む
 秋夜
 老の身の独り淋しき秋の夜を 慰めんとや雁鳴き渡る
 旅
 開け行く御代の恵の汽車の旅 昨日は都今日は松前
 残菊
 紅葉ちり淋しさ増さる庭の面に 嬉しく残る黄菊白菊
 偶感
 常なきを常と思へば恨みなし 曇りし空の晴れぬものかは
 歳旦
 年あけて朝日の御旗翻し 高麗のはてまで祝ふ御代かな

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