「桑の實」
 
  桑の實
  
  
     まへをき

一、 わが歌の貧しく拙きは、吾がいのちの貧しく拙きを意味する。 生来愚鈍にして狷介のわたしの歌何ぞひとり高く美しくあるを得よう。 ただ貧しきは貧しきままに、拙きは拙きままに、まことを傾けて詠はんと念ずる次第である。
一、 人の個の悲しみ、現身のかなしみ、人間としての悲しみを、國の子としての悲しみ、 大きいのちとしての悲しみ、皇民としての悲しみまで高め且つ深めんとすることこそ 吾が作歌の上の心得である。素直な、優しい和やかな気持ち、そうしたものを心静かに養成したいと思ふ。


      昭和十八年十月二十八日    花輪偶居に於て
                         天峯 識

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