77 ぼさまといたこ(八幡平)
参考:鹿角市発行「八幡平の民俗」
昔、ある処に、昔話の大好きな男が居て、何時も皆に、
「俺に飽きるくらい昔っこ(昔話のこと)教えてくれる人は居ないだろうか。聞き飽き
るくらい昔っこ教えてくれた人には、俺の家の娘を嫁にくれてもやっても良いのだが…」
と言い触らしていた。そこで、昔っこを覚えている人たちが、
「よーし、俺がその娘を貰ってやろう」
と出かけて行って、昔っこを始めたけれど、その男はいくら聞いても飽きない男であっ
たために、ありったけの昔っこを語ってしまって、タネが無くなってしまうのだった。
「それから」
と催促されると、タネが尽きてしまうので、
「どっとはらえ」
と言って、さっさと逃げてしまうのであった。
ある処にぼさま(坊様)が居て、
「よしよし、俺が話こ教えてやろう」
と言って出かけて来た。そして、
「俺に昔っこを語らせて下さい」
と言って、昔っこを始めた。
「昔、碁うち大夫殿よりも、あまり面白えでぁ、どんべらはんすけはぁ、はっはらはろ
は」
と言って、また直ぐに、
「昔、碁うち大夫殿よりも、あまり面白えでぁ、どんべらはんすけはぁ、はっはらはろ
は」
と同じことを繰り返した。そして何回も何回も、
「昔、碁うち大夫殿よりも、あまり面白えでぁ、どんべらはんすけはぁ、はっはらはろ
は」
とそればかり繰り返してしゃべっていた。それで、その昔っこの好きな男はあきれてし
まって、
「あとは良いあとは良い、充分聞いた。娘をくれてやるので、連れて行ってくれ」
と言って、大切な娘をくれてしまった。
娘を貰った坊様は、たら(俵)にその娘を入れて、ドッコイショと背負って、家へ帰
っていった。途中で、
「姉ぇこ姉ぇこ、うんこ出るか、おしっこ出るか」
と訊いたら、中から姉っこが、
「うんこも出ないし、おしっこも出ない」
と答えた。そうしているうちに、花輪町のような町に着いた。坊様は、喉が渇いてきた
ので、
「姉ぇこ姉ぇこ、一寸の間、待っていてくれ」
と言って、ある酒屋に入っていって、背負っていた俵を下ろして、盛切モッキリ一杯飲んだ。
そうしていたら、酒屋の若衆たちが出てきて、
「坊様、何を背負っていたのか」
と俵の中を見たら、綺麗な姉ぇこが入っていた。若衆は、
「よしよし」
と言って、娘こをこっそり出して、代わりに中へ両手一杯の酒の粕を入れておいた。
坊様はたらふく飲んだので、好い気持ちになって、
「姉ぇこ姉ぇこ、また負ぶってゆくよ、ドッコイショ」
と俵を背負って出かけた。そしてまた途中で、
「姉ぇこ姉ぇこ、うんこでるか、おしっこ出るか」
と訊いたら、今度は返事が無かった。そこで俵にそっと手を触れたら、、なんだか冷や
っとするために、
「どうしておしっこをしたのか、おしっこが出るのなら、おしっこが出ると言うのだよ、
うんこが出るのなら、うんこが出ると言うのだよ」
と言って、またどんどん歩いて行った。
段々家に近くなった処で、坊様が家で待っていた御方(奥方)のいたこ(盲目の口寄
せ巫女)に、大きい声を出して、
「いたこの畜生、出て行って消え失せろ」
と叫んで、家に入った。そうしたら、家に居た奥方のいたこが、
「どうして、こうなったのか。そうしたら私は出て行ってしまうよ」
と怒って、自分の物を始末して、さっさと出て行った。坊様は家に入って、
「姉こ姉こ、家に来たよ」
と言って、背負っていた俵を下ろしたら、中から返事が無かった。さてどうしたのかと
思って、俵の中に手を入れて探ってみた。そしたら指に酒の粕がたくさん付いてきた。
「どうしたのかお前は、うんこしたではないか」
と言って中を見たら、娘こはどこかへ行ったのか、居なかった。坊様はびっくり仰天し
が、どうしようもなく、仕方がなかったので、また大きな声を出して、
「いたこいたこ、酒の粕を十分に食べさせるので、戻ってきてくれ」
と呼び込んだ。
しかしいたこは、
「糞ーっ食らえ」
と言って、戻って来なかった。坊様は、それからは奥方を持たないで、独りで暮らした
と云う。どっとはらえ。
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