76 我が儘小坊と鬼(八幡平)
 
                       参考:鹿角市発行「八幡平の民俗」
 
 昔あるお寺に、和尚さんと小坊さんと二人暮らしていた。
 小坊さんが、
「和尚さん和尚さん、今日山へ竹の子採りに行ってくる」
と言い、和尚さんは、
「一人だと良くないよ」
と言うのを聞きつけないで、昼飯を持って出かけた。
 山には、沢山竹の子があって、入れ物一杯にたくさん採っているうちに、とうとう日
が暮れてしまった。山奥なので途中で暗くなった。夢中で歩いていると、向こうにピカ
リピカリと灯りが見えた。それをめがけて行って、
「何とか一晩泊めて下さい」
と、戸をダンダンと叩いて頼んだ。そうしたら奥から、
「誰だ」
と言う声がした。
「寺の小坊だが、道に迷って来たので泊めて下さい」
と言ったら、
「入ってくれ」
と言う声がした。人だと思って入ったら、角の生えた鬼だった。どうにも逃げられない
ので入った。そして米の飯に、竹の子汁をご馳走になった。早く寝て、何とか逃げ出そ
うと考え、
「どうか先に休ませて下さい」
と言うと、鬼は、
「待て待て、逃げないように手錠を掛けてやる」
と言い、とうとう小坊は手錠を掛けさせられて寝た。どうして逃げたらよいか考え、
「便所にやって下さい」
と手錠をはめられたまま便所に行って、いろいろ工夫した。鬼は家の中で喰ってやろう
と思って、
「味は良いか」
と叫んだ。小坊は、
「まだでんこでんぶくねえ」
と返事した。三回も繰り返しているうちに、ようやく手錠をはずし、便所の中の錠に掛
けて、今度は何も持たないで、野を越え山を越え川を越えて逃げた。鬼も気がついて後
を追いかけた。
 
 しかし小坊は、ようやくお寺に着いた。
「和尚さん和尚さん、大変だ、鬼に追いかけられて来たので、早く隠してくれ」
と大声で頼んだ。和尚さんは衣の袖の下に隠した。そして知らん顔をしていると、鬼が
追いかけて来て、
「和尚、小坊が来なかったか、きっと来た筈だ」
と怒鳴った。
「さあ、知らないなァ。もしかして本堂の隅この大きなコガ(桶)にでも隠れたかな」
と和尚さんは答えた。鬼が本堂へ行くと、小坊をよそへ隠し、鬼の後に続いて行った。
 
 鬼は本堂のコガに何回も跳ね上がり、縁に手を掛けようとしたが、なかなか手が届か
なかった。和尚さんは、
「必ず小坊が入っているから、門前から梯子を借りてこい」
と言った。鬼は梯子を架けて中を覗いていると、近所の人達が続いて来て、梯子の根元
を引っ張り、鬼をコガの中に突き落とした。
 そして皆で梯子を架けて、コガの中の鬼を棒で退治し、「がんじる」にして皆で食べ
て、お祝いをしたと云う。どっとはらえ。

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