7501末娘と蛇
 
                       参考:鹿角市発行「十和田の民俗」
 
 昔、娘を三人持ったエデ(父親)とアッパ(母親)とありました。
 五月(旧暦)もきて、田植えはしたところで、何時行って見ても、田に水は一杯入っ
ていませんでした。
 エデは、田の畔に居て独り言を言いました。
「田へ、誰か水を一杯入れて呉れれば、俺は三人の娘を持っているために、どれでも、
一人を呉れるけれど」
 
 次の日、田へ行って見たら、どの田にも丁度良く水が入っていたが、そこへ、
「それは、俺が入れたのだ」
と背の大きい、色の白い男が来ました。それは、白い大きい蛇でした。そして男は、
「娘を呉れる言われたところで、水を入れたのだ」
と言いました。『誰だって蛇へ嫁にと云う奴は居ない』と思って、寝て起きませんでし
た。
 
 幾ら『ままけぇ(ご飯を食え)』と言っても決して起きませんでした。
 先に姉娘が行ったところで、
「俺の言うことを聞いて呉れれば、俺は起きるし、そうでなければ起きない」
と言いました。
「何してなのや」
と姉娘がしゃべりました。
「俺はな、こうして田に水を入れて呉れれば、俺の娘を呉れると言ったところで、蛇が
入れて呉れた。お前が蛇へ嫁に行って呉れれば、俺は起きる」
と言いました。
「誰が、オレが行くのか(行かない)」
と言って、枕をボップリ踏んで(蹴って)、姉娘が行きました。
 二番目の娘にも言ったら、
「誰が、蛇へ行くのか(行かない)」
と言って、行きました。
 
 三番目の娘、『あれが一人だ、あれだってなんだ、行って呉れるだろうか』と苦して、
何もかも心配して居ました。
 三番目の娘が来ました。
「エデ、起きてままけぇ」
「俺の言うことを聞いて呉れれば、ままを食うし、そうでなければ、俺はままも何も食
わないで死ななければならない」
「何が(どうして?)」
と、娘が言いました。
「俺は、こうして田へ水を入れられないために、田へ水を入れて呉れれば、俺は娘を呉
れると言ったところで、水を入れて呉れた。それは蛇だったのや」
「よい、オレは行く」
と、娘が言ったところで、そうしたところ、エデはゆっくりして(安堵して)起きて、
ままを食っていました。
 
 日にちも経って、娘が嫁ッコに行くことになりました。そうしたら娘が、
「オレには、何も要らないから、糠を入れた俵を千俵を支度して呉れろ。あとは何も要
らないために」
と言いました。エデは、糠を入れた俵を千俵支度しました。
 そうしたところでその日、家に泊まっていたら、蛇が迎えに来ました。俵を蛇に運ば
せました。千俵も配らせたのでした。
 蛇が居る処は沼でした。その沼へ、その糠俵を入れなければならないので、島にして
保管しなければならないために、糠俵を沈めようと思って、尾ッパでもって押っつけ、
頭でもって押っつけたけれども、糠俵はなかなか沈まりませんでした。そのうちに蛇は、
死んだものみたいに、なりました。そして、その娘は戻ってきました。どっとはらぇ。
(風張)
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