74 猿の嫁になった娘(八幡平)
参考:鹿角市発行「八幡平の民俗」
昔ある処に、娘三人を持った百姓が居た。あるとき、耕している沢田へ水が来なくな
ったために、見回りに行った。そしら谷から流れてくる堰を猿たちが土で止めていたの
で、そのため水が切れていたのであった。そこでその百姓は、
「猿たち猿たち、どうかその水を放してくれ。その水を放してくれれば、俺の家の娘を
嫁にくれてやる」
と言った。その猿たちは、
「本当だな、それなら放してやる」
と言って、堰を放して水を入れた。百姓は、
「ああ、好かった好かった」
と家に帰ってきたが、猿と約束した娘を嫁にくれてやることにしたけれども、誰が行っ
てくれるだろうと思って、心配で心配で、どんと寝床をとって、寝ていた。
晩方になって、上の娘が、
「ぢさまぢさま(爺様)、起きてまま(ご飯)を食って下さい」
と言ってきた。爺様が、
「お前は猿の処に嫁こに行ってくれないか」
と言ったところ、
「小馬鹿みたいだ。誰が猿の処へ嫁に行く人があるものか」
と行ってしまった。また中の娘が、
「爺様爺様、ご飯食って下さい」
と言ってきた。爺様が、
「お前は猿の処に嫁こに行ってくれないか」
と言ったところ、
「人(私)を馬鹿にして。誰が猿の処へ嫁に行くか」
と行ってしまった。また下の娘の末子も、
「爺様爺様、ご飯食って下さい」
と言ってきた。
「末子末子、お前は猿の処へ嫁こに行ってくれないかい」
と言ったら、末子は、
「どうして」
と訊いた。それで爺様は猿と約束したことを話した。そうしたら末子は、
「それなら行かねばならないな。俺は行っても良い」
と言った。それで末子を猿の処に嫁にくれた。
嫁に行った末子と婿の猿が、里帰りに来ることになった。そして餅をついたり、葡萄
とか栗など、たくさんのご馳走を背負ってやってきた。婿の猿がついた餅、臼ごと背負
ってきた。途中、道端の川の傍に来たら、川の縁の木に綺麗な花こが咲いていた。末子
がそれを見て、
「あらー、綺麗な花こだこと。俺の家の爺様が花こが好きなために、この花こ持って行
くことが出来たら、どんなにか喜ぶでしょう」
と言うと、猿は、
「そのように言うのなら、俺が取ってきてやる」
と臼をそこへ下ろそうとしたら、末子は、
「だめだめ、臼を下ろせば、蟻どもに入られるよ」
と言った。猿はしかたがなく臼を背負ったまま木に上った。そして、
「これか」
と言ったら、
「いや、もっとそっち」
「これか」
と言ったら、
「もっとシンこ(先)の方」
「これか」
「もう少し端っこの方」
とうとう本当のうらこ(先端)の方まで上ったところで、臼も背負っていたので、あま
り重いために、枝がガリッと折れて、猿は臼を背負ったまま、ぼったり落ちて、あっぷ
あっぷ流れてしまった。
末子は家に走って行って、爺様に教えて、猿を揚げてみたが、死んでいた。
「仕方がない、死んでしまったので、売ってしまおう」
と言って、町へ猿を売るために行った。
「猿か(猿皮)三十に、身ぁ(肉)六十、こんべ(頭)十文で、ちょん百だ。々々、…」
と売って歩いた。
この親の言うことを聞いた末子は、後に小水沢コミッチャの大きい家の嫁こになって、幸福
に暮らしたと云う。どっとはらえ。
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