68 甚兵エ川原ジンベエカワラの狐(毛馬内)
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔の話っこです。
 昔昔、毛馬内の甚兵エ川原に、たいした悪い狐が居てね、小坂の町(市)の日へ商い
アキナイに行った帰りの人達を騙ダマして、あぶらげ(油揚げ)とか魚などを捕ったもので
した。
 ところがある日、一人の若者が甚兵エ川原を通りかかると、狐は川の水に顔を映して、
一生懸命化けている最中サイチュウでした。
「ははん、この馬鹿狐め、今度は何に化ける気で、こんなことをしているのかな」
と、草の陰に隠れて見ていました。
 そうしたら狐は、てろんと綺麗キレイな姐アネさんに化けました。
 けれども、川に映った頬ツラっこは、姐さんであったけれども、映らなかった後ろの方
のところを化け忘れて、未だ狐の毛はふさふさとしていました。若者は、おかしくって、
おかしくって仕方がなかったけれども、知らぬ振りして近付いて行って、
「姐さん、姐さん、何処ドコへ行くところでしょうか」
と聞きました。そしたら狐が化けた姐さんは、
「俺オレは、これから毛馬内の町へ用っこがあって行くところなのですよ」
と言いました。若者は、
「そうですか、俺も丁度毛馬内へ行くところです。そしたら、一緒に行きましょう」
と言って、狐が化けた姐さんと、若者が一緒になって、毛馬内の町へ歩いて来ました。
 
 さぁて、いよいよ毛馬内の町へ入ったら、『かどや』と云う酒屋サケヤがあって、酒っ
こを造っているものですから、プーンと良いかまり(匂い)っこがして来ました。
「姐さん、どうだ、此処ココで一杯酒っこを飲んで行かないかい」
と若者が言いました。そうしたら、狐も酒っこが好きなものですから、
「そしたら一杯行きましょうかね」
と、『かどや』へ入って、
「さあ、どうぞ、さあ、どうぞ」
と、酒っこを飲みました。そして、狐がいい加減に酔っぱらったところを見計らって、
若者は、
「姐さん、姐さん、後ろこのところが見えているようですよ」
と言いました。
狐はびっくりして、後ろこのところへ手をやったけれども、もうどうにもならなかった
そうです。
「この馬鹿狐め」
と、若者には叩タタかれるし、逃げる気になっても、酔っぱらっているものですから、あ
っちさ、ふらふら、こっちさ、ふらふら、やっと山っこへ逃げて帰りました。
 どっとはらえ。

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