59 歌っこを歌う猫
参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
昔の話っこです。
あるとき、婆様バサマ一人で留守番をして炉ロに当たっていました。
「誰も居なくて、ぎやない(退屈・寂しい)な」
と言いました。すると、側に居た猫が突然口を利キいて、
「婆様や、婆様、それなら俺オレが歌うから誰にも黙ダマって、言わないで下さい」
と言いました。
婆様は、よし、よしと承知すると、その猫はとろっとするような、真に良い声で歌っ
こを歌いました。
そのうちに息子が帰って、家の近くへ来たら、家の中から何とも云えない良い声の歌
っこが聞こえて来たので、そのまま外に立って聞いていました。
やがてその声が止んだので、
「今来た」
と言って家の中へ入ったけれども、婆様の他は誰も居ませんでした。
「婆様や、婆様、今歌っていたのは誰じゃ」
と聞いたら、婆様は、
「俺だ」
と言いました。
「んにゃ、婆様でないだろう。とても良い声だったもの、んで、誰でしたか」
と聞きました。
婆様は、初めは黙ダマっていたが、あまりしつこく聞くので、とうとう、
「あのな、今猫が」
と言い出したら、その途端トタンに、側の猫がぱっと飛び掛かって、婆様の喉ノドを噛み切
ってしまいました。
どっとはらえ。
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