58 猫又ネコマタ
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔にあった話っこです。
 ある人が尾去沢オサリザワから山を越して、毛馬内ケマナイへ行こうかと思って、新田シンデンへ
出ました。それから迷って、遥ハルか知らない山へ来てしまいました。
 そのうちに日が暮れて来たので困っていると、向こうに明るい大きな家が見えたので、
泊めて貰モラいに行きました。
 台所に大勢の女オナゴ、子供ががやがやしていたので、
「泊めて呉クれろ」
と頼んだら、常居ジョイの方へ通されました。
 そのうちに、どやどやと客地カクヂ(家の裏)へ行く音こがしました。暫く経つと、後
ろの襖フスマが開いて年寄った婆様バサマが入って来て、
「父様オドサ、お久し振りですね。動転ドデン召メさないで下さい。私は、爺様に永年育て
られた三毛猫ミケネコなのです。此処ココは猫又と言って村の余り猫が集まる処で、今お前様
の夜具布団を取りに行ったけれども、此処に居ると食われるから、早く逃げて御座れ」
「この床の隅に元穴があるから、それを潜クグると縁の下に出る。そして門を出張デハれ
ば川があって、この川を渡りさえすれば猫が行けないから、もう安心だ。早くして御座
れ」
といいました。
 
 男はなる程、爺様の代に三毛猫が年寄って居なくなったことがあったが、この猫だっ
たのかと思いました。
 そして、言われた通りにして、屋敷の外に出て、着物を頭に結ユわえて川を渡り掛けた
ら後ろから、
「にゃご、にゃご」
と大勢の猫が追い掛けて来て、何もかも恐ろしかったけれども、やっとの事で川を渡っ
て、向こう岸に着いたら、猫達は後ろを追っ掛かけて来なかったそうです。
 山を登って行くと、そのうちに白々と夜が明けて、辺りを見たら、とんでもない方角
に迷い込んでいたのでした。
 それから、やっと道を見付けて家へ帰りました。
 どっとはらえ。

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