55 舌切り雀スズメ(大湯)
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔、あったのです。
 爺様ジサマは山へ柴刈りに行きました。婆様バサマは川へ洗濯に行きました。そうしたら、
箱ハコっこがドンブリ、ドンブリと流れて来ました。
「実ミの入った箱っこ、こっちへ来い、実の入らない箱っこ、あっちへ行け」
と言ったら、実の入った箱が流れて来ました。
 家へ持って行って開けて見たら雀っこが入っていました。
 爺様が帰って来てからそれを見たら、爺様は、
「あや、良いことをした。孫も持たないし、子も持たない。大事に育てよう」
と、育てました。そうしたら、ある時、婆様が仕事をしているうちに、雀っこが、婆様
が付けていた糊ノリを食ってしまいました。婆様は、
「あや、憎ニクらしいな。お前のことを、幾ら目に遭って(苦労して)育てたものではな
いか」
と鋏を持って、舌をチンと切って、頭を叩タタきました。そうしたら雀は、
「頭が痛いで、チンチン、舌っこ痛いで、チンチン」
と、山の方へ飛んで行きました。
 
 爺様が山から帰って来て、雀っこが居ないために、
「婆様、雀っこは何とした」
と聞いたら、
「舌っこを切ったら、山へ飛んで行った」
と言いました。爺様はじっとして居られなくて、山へ探しに出掛けました。
 ずっと、ずっと行ったら、萱カヤ刈り達が居ました。
「萱刈りや、萱刈り、俺オレの家の雀っこを見なかっただろうか」
「お前の雀っこは、山奥のお堂この前の木に住んで、爺様が来たならば金の箸ハシで金の
御器ゴキで米の飯ママ三膳ゼンチンチン。婆様が来たら萱の箸で猫ネコの御器で糠飯ヘヌカ三膳チ
ンチンと、泣いていました」
と言いました。そうしたために、またずっと行ったら、布を着ていた人が居ました。
 
「布ちぎ(布を着ている人)や、布ちぎ、俺の家の雀っこを知らないか」
「布汁ツル三杯ベ飲んだら知らせる」
と言いました。婆様は、
「そんなもの、こ汚キタナい、飲まれるだろうか」
と言ったけれども、爺様は、
「俺が飲もう」
と飲みました。布ちぎは、
「お前の家の雀っこは、山奥のお堂この前の木に住んで、爺様が来たならば金の箸で金
の御器で米の飯三膳チンチン。婆様が来たら萱の箸で猫の御器で糠飯三膳チンチンと、
泣いていました」
と教えました。山へ行ったら、居ました。爺様は雀に、
「あんでけろ(歩いて帰って呉クれろ)」
と言ったけれども、
「飯ママを食って、腹拵えハラゴシラエして戻って呉れろ」
と、雀っこが言ったら、婆様は、
「早く行こう。此処ココに来て何が食う物があると言うのや。行った方が良い」
と言ったけれども、爺様は、
「何でも食わせて呉れろ。俺ならば何でも食う」
と言いました。雀っこは爺様には旨い物を食わせて、婆様には糠飯を食わせました。
 
 そして、爺様と婆様が帰るとき、雀っこは、
「爺様や、爺様、重たい篭カゴを欲しいか、軽い篭を欲しいか」
と聞きました。
「おれは与太ヨダっこ(か弱い者)なので、重たい物は持てないので、軽い篭を呉れて呉
れろ」
と爺様が言ったために、爺様には軽い篭一つ、婆様には重たい篭二つを持たせました。
 家へ帰って開けて見たら、婆様の篭は、蛇とか、もっきゃ(蛙カエル)などがゴヨゴヨと
入った篭でした。
 爺様が開けて見たら、絹物がビンとありました。だから生きているものには、親切に
してやるものだそうです。
 どっとはらえ。

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