54 狐に憑ツかれた話(大湯)
参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
昔、あったのです。
蛇沼ヘビヌマに、八ハチと云う人が居てありました。立坂にある新城シンジョと云う家に婆
ババと二人で来ました。そして、その帰りに塩引シオビキの頭だとか、何だかんだを背負っ
て行ったら、狐がそれを食べたがって、チョロ、チョロ付いて来るのでした。婆は、
「八、狐が食ってがって来た。呉れだら」
と言ったけれども、八と云う人は気の強い人で、
「何のために狐に呉れていられるか」
と、狐に構わないで行きました。狐は、
「呉れろ、呉れろ」
としっぺこ(尾っぱこ)を回して、爺ジジになって来ました。
「重たかったろう。その魚は俺オレが持つか」
と言ったけれども、八は、
「何、この狐の畜生チクショウ、これは、さっさと山へ行け」
とぼったくって(追っ払って)やりました。
その次の年になって、盆の時、また八が新城へ行きました。そして新城の光さんと盆
踊りを見に行きました。
光さんは踊りを見ていたら、踊りたくなったために、
「八、俺オレの家へ行って、着物を持って来い」
と使ってやりました。八は新城の裏まで来て、暗い処を歩いていたら、狐がぴったり八
におぼさりました(負オんぶさりました)。
そのために、八はおっかなくて、おっかなくて、ヤンヤと叫んで、やっと新城へ着き
ました。
今度は盆踊りが終わって、家に帰るとなったら、おっかなくて、どうにもこうにもな
りませんでした。
そうしたために、新城のおばちゃは、
「八や、八、灯アカシを点ツけて行こう」
と提灯チョウチンを点けて送って行きました。
そして、いつもの和町ワマチの坂まで来たら、プッツリと提灯の火が消えました。そし
て、それからと云うものは、八の声が掠カスれたそうです。
それはきっと、狐憑きであったのでしょう。
どっとはらえ。
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