52 狐が食べ残した鰊貝焼ニシカヤキ(花輪)
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔、あったのです。
 花輪のある処に、林檎リンゴをやっている爺様ジサマと婆様バサマと居ました。
 ある年の秋、林檎がいっぱい成ったので、二人で林檎畑の小屋に泊まって、林檎もぎ
の仕事をしていました。
 ある日、爺様は花輪の町へ用っこを足タしに出掛けて行きました。夕方になっても、戻
って来ませんでした。そのうちに、日も暮れてしまったので、婆様は小屋に入って晩
バンゲの支度を始めました。さっからにし(身欠鰊ミガキニシン)を鍋こに入れて、かやき(
貝焼き鍋)を煮ていたら、爺様の「エホン、エホン」と云う声と「ガッポラ、ガッポラ
」と云う長靴の音が聞こえて来ました。でも、爺様はなかなか小屋の中に入って来なか
ったそうです。
 
 婆様は外に出張デハて見たけれども、爺様の姿は其処ソコいらに見えませんでした。
「爺様、爺様、何処ドコに居たか」
と婆様が呼んでも、何処からも返事がなかったそうです。
「おかしなこともあるものだ」と、思いながら小屋の中に戻って見たら、大きな狐が居
て、鍋に手を突っ込んで、かやきを食っていました。婆様は怒って、
「コラーッ、この狐!」
と、大きな声を出して追っ払ったら、ソロッと逃げました。
 目を放していると、コソッと入って来て、かやき鍋に手を入れて食べるのです。何回
追い払っても、入って来るので、婆様はごしゃやけて(怒って)、わっちゃき(太い棒
切れ)を持って、狐の背中をワッタリと力いっぱい叩タタいたら、狐はボーンと飛び上が
って、「ギャン」と叫んで、下の沢の方へ逃げて行って、後アトは小屋へ来なくなりまし
た。
 それから暫くしたから、爺様が帰って来たので、二人で、狐の食べ残したかやきで、
晩飯バンゲママを食べて寝ました。
 どっとはらえ。

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