47 じほこき男(八幡平)
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
                    「じほこき」とは、「坊主ズボウを放コく」
                   つまり坊主ボウズの真似をするの意であると思
                   います。             SYSOP
 
 昔、あったのです。
 八幡平のある処の大きな松の木が生オがっていた金持ちの大きな家に、刈子カレコ(使用
人)として使われていた藤五郎トウゴロウと云う男が居ました。
 ある時、山へ薪タキギを採りに出掛けました。何にも稼がないで、昼寝ばかりして晩方
バンカタに家へ帰って行きました。
「藤五郎、今日は薪をなんぼ採って来た」
と旦那ダンナに聞かれました。
「どど(旦那のこと)さん、十八杷パであります。男は鉈を振り上げたら、薪は十八杷
に決まっているでしょう。それより、山でたまげた(驚いた)ことがありました」
「たまげたこととは、どんなことだ」
「それはな、大きな松の木に、鷹タカが沢山巣を作って、あっちからもピイー、こっちか
らもピイーと鳴き声が聞こえて来るし、忙セワしくあっちへ行ったり、こっちへ飛んで来
たりして、碌ロクに昼寝もされなかったのです」
と、坊主を放いて(ジホコエテ)言いました。旦那さんはそれを聞いて、
「それなら、俺オレも行って見たいので、連れて行け」
「鷹はただじっとしている訳でないから、あっち突っつくし、こっち突っつくして、お
っかなくて、やずかない(とんでもない)ものだろう」
「そんなことは何でもない。俺は慣れているから、連れて行け」
と云うことで、次の日、二人で梯子ハシゴを持って出掛けて行きました。
 
「どどさん、俺は意気地なしジクナシで、高い所へおっかなくって上ノボれないな」
「藤五郎、下に居て親鷹が来ないかよく見ていろ」
と言って、梯子を上って行きました。梯子の天辺テッペンまで上ると、
「藤五郎、どの辺だ」
「もっと上の枝の方だけれども」
どどは梯子から離れて、木の枝に保つ支りタモツカリ(掴まり)ながら、ずっと上の方へ上っ
て行きました。
「藤五郎、未だだか」
「うん、もう少し上の方だ」
と言って、どどが上っている間に、藤五郎は木から梯子を外ハズして、それを担カツいで、
ぐんぐん家へ戻って来ました。
「ががさん(お上カミさん)、大変なことになった。どどさんが山の松の木から落ちて、
大怪我オオケガして、動けなくなって寝ています」
と言ったために、家の者達は動転ドデンしてしまって、騒いで居たところへ、どどさんが
ごしゃやいた(怒った)面ツラ付きで帰って来て、
「藤五郎居たか。今日、藤五郎によって、騙ダマされて、ひどい目に遭アった。あの野郎、
ただでは置かない。あんな奴は間木マギにある簾スダレに包クルんで、川へ持って行ってドブ
ンと流して来い」
と、他の刈子達に言い付けました。
 刈子達は、仕方なく簾に藤五郎を包んで、川の側まで運んで来たら、藤五郎が、
「ウーン、今思い出したけれども、困ったなあ。実はなあ、俺の寝床の下に、俺が貯め
た銭ゼンこを置いているけれども、俺が死ねば、誰の物でも無くなってしまうために、お
前達に呉クれるので、取って来て呉れないか。そうすると、俺も快ココロヨく死ねるから」
「そんな事なら、今すぐ行って来て呉れる」
と言って、藤五郎のことを其処ソコに置くと、我れ先と皆、家の方へ馳せて行ってしまい
ました。
 
 其処へ、目腐れの牛方ウシカタが、シーッ、シーッと牛ベゴの尻ケッチを追って来ました。
「おい、おい、おーい」
「俺に、用こなのですか」
「うん。お前さんは眼マナグが良くないようだけれども、そのままにしていれば、死んで
しまうぞ」
「そうしたら、どうしたら良いのだろうか」
「俺も、眼腐れになったので、こうして置いて貰ったら、これこの通り一晩ヒトバンゲのう
ちに良くなってしまった」
「そうですか。俺も代わりに包んで貰えるのですか」
「良いですよ。俺の縄を外して呉れろ」
 藤五郎は牛方のことを簾に包むと、牛方が連れて来た牛を追いながら、町の方へどん
どん逃げて行ってしまいました。
 
 其処へ、さっき銭こ見付けに行った刈子達は、寝床を探しても銭こが出て来ないので、
藤五郎によって騙されたのだと気付いて走って戻って来ると、簾の中味を確かめないま
ま、川へドンブリと投げてしまいました。
 町へ逃げた藤五郎は牛を売って、その銭こで綺麗キレイな上等の木綿(着物)を買って着
たとそうです。それから、どどの家へ戻って来て、
「簾に包まれて川へ投げられたけれども、竜宮城リュウグウジョウへ行ったら、乙姫様オトヒメサマ
に惚ホれられて、婿ムコになることになった。毎日いい木綿を着て、美味しいご馳走が食べ
られるし、鯛タイなど綺麗な魚もいっぱい居て、大した良い所であったのです」と言った
ら、どどは、それを聞いて居て、
「それなら、俺も行って見たいなあ。俺のことも連れて行け」
 
 そこで藤五郎は、どどと縄梯子を持って川へ行きました。それから、橋の上から縄梯
子を掛けて、藤五郎が先に下りかけたら、
「藤五郎待て、俺が先に行く。お前は後アトから来い」
と言って、どどが先に縄梯子を下りて行きました。
 その時、藤五郎は隠して持っていた鉈で、縄梯子の上の方を切ってしまったために、
どどは川へドブンと落ちて、アップ、アップしながらどんどんと流されて行ってしまい
ました。藤五郎はそれを見てから、どどの家へ行って、
「どどは竜宮の乙姫さんの婿になると言って、行ってしまった。俺にどどが帰って来る
まで、この家のどどになって、何でも始末して待って居ろと」
 藤五郎は、遂にこの家の旦那に座ってしまいました。
 どっとはらえ。

[次へ進む] [バック]