44a 粟ぶくと米ぶく(八幡平)
 
 そのうちに、花輪の祭こが来ました。継母は、自分の子ばかり連れて行く気になって、
粟ぶくに仕事をのっこりタクサン預アズけました。庭にノロッと粟を広げて、
「この粟をみんな押して置け」
と言いました。そして、米ぶくにはデラデラッ良い着物を着せて、二人で町へ出掛けて
行きました。そうしたところで、粟ぶくは、
「どうもしようがない、俺も祭こに行きたいけれども、連れて行かないだろうし、どう
にもされないな」
と、まず、おぼけ(竹篭)で風呂へ水を汲みました。けれども、ジャーとまかって(こ
ぼれて)ばかりいて、水はさっぱり溜まりませんでした。そこへ、寺の和尚さんが来て、
「それだと水は溜まらない。これで底に詰めて汲んでみたら」
と言って、衣コロモの袖をもいで(ちぎって)、おぼけの底を塞フサいでいました。それで、
粟ぶくは、一時間イットキマ(エットコマ)にいっぱい水を汲んでしまいました。それから、今度は
栗を押したけれども、なかなか捗ハカドらなくていたら、雀スズメこ達がいっぱい集まって
来て、チュンチュン鳴きながら粟押しをし、羽根こでバタバタやればボボーと籾モミも飛
んでしまうし、これも一時間に出来てしまいました。
 
 言い付けられた仕事が速く終わったので、粟ぶくもどうしても祭こを見たくなって来
ました。それで、婆様から土産に貰った着物を出して、綺麗に飾って花輪へ出掛けまし
た。町へ行ってみたら、継母は自分の子にだけ何だり買って呉れて、好きなものを食わ
せ、いい気になって、祭こを見て歩いていました。粟ぶくは、あんまり憎らしく悔しく
なって、自分も梨ナシを買って食って、そのかまど(食べ残しの種の部分)をブーンとぶ
っつけてやりました。そうしたら米ぶくが「母アパや、母。粟ぶくも来ているよ」
と行ったけれども、継母は、
「誰が来るだろうか(どうして来れるものか)。あの位のっこり仕事を言い付けて来た
ものなのに」
と言うので、
「そうだろうかな」
と言って、また、いい気になって、祭こを見ていました。粟ぶくは、
「あれ達は、家へ戻るかも知れないな」
と思って、十分に祭こを見て、先に家へ帰って、良い着物は仕舞って、知らない振りを
して、其処いらを片付けたりしていました。一時間エットコマしたら、二人が帰って来たため
に、わざと、
「お前達はな、お前達ばかり祭こを見に行って来て」
と、羨ウラヤましそうに言いました。
 
 次の日になったら、
「粟ぶく嫁こに給ターもれじゃ。粟ぶく嫁こに給ーもれじゃ」
と言って、嫁貰いが来ましたが、継母は、
「米ぶくな」
と聞いたら、また、
「粟ぶく嫁こに給ーもれじゃ」
と言いました。
「米ぶくではないかい」
と聞けば、
「んにゃ、粟ぶく呉れて給えタモレ」
と言いました。
 
 この嫁貰いは、村の大きい家の人で、昨日粟ぶくが一生懸命稼いだり、綺麗ぇーな着
物を着て、大した綺麗な娘こになって祭こへ行くところを見たために、
「あれなら、俺の家に嫁こに欲しいな」
と思って、来たのでした。継母は何たって自分の娘の方を呉れたいと思って、
「俺の家の粟ぶくの髪ときたら、ジーワリカブキリキリキリと大した目臭い(みっとも
ない)髪だし、米ぶくの髪なら、ピンパラリンピンパラリンと、良い髪なのにな」
と言ったけれども、嫁貰いは、
「んにゃ、粟ぶく給えタモレ」
と言いました。仕方無く、粟ぶくのことを呉れることにしました。そしたら、その大き
い家から、金覆輪キンプクリンの鞍クラを置いた馬こが迎えに来て、カランコロン、カランコロ
ンと、鈴を鳴らして、嫁こが行きました。米ぶくはそれを見て、羨ましそうに、
「ああ、俺も嫁こに行きたいなぁ」
と言いました。継母も、無情ムジョけなくなって(可哀想になって)、
「そしたら、おれが連れて行く」
と言って、米ぶくのことをばっこぶるしに乗せて、デンゴロリン、デンゴロリンと、田
の畦クロを引っ張って行きました。そしてら、ばっこぶるしがデングリとひっくり返って、
米ぶくは田の中に落ちて、ズブズブと沈んで行って、
「羨ましいーじゃ、うらつぶ。尻シリこの曲がったも、おかしけり」
と言いながら、螺ツブになってしまいました。
 どっとはらえ。
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