44 粟ぶくと米ぶく(八幡平)
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔、ある処に継母ママハハが居ました。
 そして、自分の子供の米ぶくと、先妻センサイの子の粟アワぶくと暮らしていました。この
継母は、何をしても米ぶくばかりめごがって(可愛がって)、粟ぶくは苛イジめてばかり
いました。
 ある日、二人に、
「山へ行って、栗クリを拾って来い」
と言い付けて、粟ぶくへは、底に穴の空いているこだし(蔓で編んだ篭)を持たせ、米
ぶくには、良いこだしを持たせて、
「これにいっぱい拾って来いよ」
と出してやりました。
 
 山へ行ったら、米ぶくは、粟ぶくのことを先に立てて、薮ヤブを漕コがせて栗を拾わせ
ました。
 粟ぶくは栗を見付けてこだしに入れれば、栗は小出しの穴からコロコロと落ちました。
後ろにいた米ぶくはその栗をチャッと拾って、自分のこだしへ入れました。また、拾っ
て入れればコロコロ、チャッと拾って自分のこだしへ貯めました。
 そうしているうちに、コロコロと落ちた栗こは、土の穴へコロコロと入ってしまいま
した。栗こ一つとも云えないと思って、二人でその穴こへ入ったら、奥の方に一人の婆
様バサマが居ました。
 
 「婆様や、婆様。此処ココへ栗こが転がって来なかったか」
と聞いたら、
「栗こよりも、お前達はどうして此処へ来たのかや。此処は鬼の居る穴で、今に帰って
来れば、お前達は捕トって食われるだよ」
と言いました。二人は動転ドデンして、
「んにゃ、どうしたら良いだろうか」
「どうしたら良いかと言っても、今鬼達は帰って来る頃だために、戻っても行き会って
しまうだろう。まず、俺オレの尻ケッツの下に早く隠れろ」
と言って、尻の下に隠して呉クれました。そこへ鬼達が戻って来ました。
 
 「や、何だか人臭クサいなー」
「んだ、んだ。何だか里臭いなあー」
と言うので、婆様は、
「今ね、里の雀スズメこが飛んで来たので、そのため里臭いなのだ」
「本当だろうか」
と言って、其処ソコいらを探していたら、
「居ないな。婆ババのことを転ばそうか。尻の下に居ないかな」
そしたら、
「年寄りを転ばせば、後ろに眼マナグが付くからな」
と言いました。鬼達は諦アキラめて、飯ママを食って、また穴から出掛けて行きました。
 
 ところが、その婆は大した虱集りシラミタカリで、背中とか、尻などモソモソモソとやって
いました。
 米ぶくと粟ぶくは、
「虱を捕って呉れましょう」
と言って、大した虱を捕って呉れました。そしたら、婆様は大した喜んで、
「良かった、良かった、大した良かった。そしたら、お前達に土産ミヤゲを呉れてやろう。
この箱は、こっちの方は重たい箱、こっちの方は軽こい箱、二人して好きな方を持って
行け」
と言いました。そしたら、米ぶくは、
「俺オレは、きつい(丈夫)ために重たい箱を貰って行く」
 粟ぶくは、
「俺は、与太こ(ひ弱ヒヨワ)なために、何ドレでも良い。軽こい方でも良い」
と、二人で箱を貰モラって、家へ帰って来ました。
 
 家に来て、米ぶくは重たい箱を開けて見てみたら、中に何ナンだりかんだりのぶかれも
のガラクタばかり入っていました。米ぶくは、
「こんなものを呉れて寄越して」
と怒って投げてしまいました。粟ぶくも軽い箱を開けて見ました。そしたら、中に綺麗
キレイーな着物とか、宝物とかがいっぱい入っていました。米ぶくは、
「粟ぶくや、粟ぶく、お前のに何が入っていたか」
と聞くために、
「俺のだってお前のだって、皆等しいだろう。等しい人から貰ったものだから。まして、
俺のだけが軽いのでしたから、僅ワズかより入っていないのです」
と言って、箪笥タンスへチャチャと仕舞シマってしまいました。
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