43 山おばと牛方ウシカタ(八幡平)
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔、ある処に一人の牛方が居ました。
 その牛方は、山へ牛を追って行って放して、小屋こに泊まるのでした。その日も小屋
に泊まることにして、晩飯バンゲママを炊タいて食いました。けれども、その日はいっぱい
余りました。牛方は、
「こんなに飯ママを残して、投げるには勿体モッタイ無いな。これを山おばに食わせたら良い
だろうなあ」
と思って、大きな声で、
「山おばやーえ、飯呉クれるから、来ーい」
と叫びました。そうしたら、向こうの山から、山おばがガリガリと柴シバを踏フんづけて、
音を発タてて走って来ました。牛方が、
「俺オレが飯を炊いて食ったけれども、飯が余ってしまった。勿体無いので、お前に呉れ
るから、食ってしまえ」
と言いました。
 
 そうしたら、山おばは、ガリガリと音を発てるようにして、ベロッと食ってしまいま
した。
 そして、牛方へ、
「こればかりか。こればかり呉れると行って、人を喚ヨんだのか」
と怒りました。牛方は、
「後アトは無いのだ。余ったために呉れる気になって喚んだのだから、後は無いのだ」
と言うと、山おばは、
「こればかり呉れるとは、人を喚んで・・・・・・。それなら、お前のことも食ってしまう」
と言うために、牛方はおっかくなって、
「んにゃ、そしたら、其処ソコに牛ベゴが居るために、その牛でも食って呉れろ」
と言いました。そしたら、山おばは、牛のことをガリガリと食って仕舞いました。そし
て、
「未だ足りない。お前も食ってしまう」
と言ったために、牛方はおっかなくなってドンドン逃げました。
 
 そして、下の山の萱柴カヤシバの陰に隠れました。追って来た山おばは、萱柴の処に来
て、
「何でもこの辺りに隠れていたな。出て来ーい」
と叫びながら、萱柴をドットッドットと倒して探しました。牛方は、端ハジこの方の萱柴
にピッタリ隠れて、
「当たって(見付かって)呉れなければ良いが」と思っていましたが、とうとう終シマい
に、その萱柴へ来たために、牛方はベロリと出張デハってしまいました。そしたら、山お
ばは、
「此処ココへ隠れていたな」と言って、牛方のことを捕まえて、引っ担カツいで、山の方へ
連れて行ってしまいました。
 山おばの家へ行ったら、先にもう一人の牛方も捕まって、隠されていました。そこで、
二人で何とかして逃げようと、こっそり相談こをしました。先に居た人が、
「お婆バさんや、お婆さん、今日は疲れたのでしょう。今日寝るとき、石のからどに休
むのですか、金カネのからどに休むのですか」
と言ったら、山おばは、
「今日、頭の塩梅アンバイが良くないので、石のからどに寝るのだ」
と言いました。
 
 「そしたら」
と、石のからどに寝かせました。山おばは、すぐゴーゴーと鼾イビキを繋カいて眠ってしま
いました。そこで、二人は、
「二人で、山おばを殺してしまおう」
「どうして殺したら良いだろう」
と相談して、大きな釜に湯をドンド沸かしました。そして、熱い湯を山おばの耳の穴に、
ドッドと注ツいでやりました。山おばは、
「熱い、熱い」
と泣きながら、死んでしまいました。
「よい塩梅に死んでしまったけれども、このままだと、また、生きて来るだろうから、
焼いてしまおう」
と言って、二人でドンドンと火を焚タいて、山おばを焼いてしまいました。そうしたら、
風が吹いて来て、その灰アグがボボーと散らばって、灰が蚊カとか夜蚊ヨガなどになって、
二人にかかって(向かって)来ました。
 それで、山おばは、死んで灰になっても人を食うと言われているのです。また今でも
蚊や夜蚊が人を刺すとのだそうです。
 どっとはらえ。

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