42 うりひめこ(八幡平)
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔、ある処に、爺様ジサマと婆様バサマとありました。この二人は子供を持たないために、
産土様ウブスナサマ(オボシナサマ)に願ガンを懸カけることにしました。
「何とかして、子供を一人授けて下さい」
と毎日拝んで、二十一日も願懸けしました。そして、その二十一日目に、これが最後だ
と石段の坂を下りて来たら、石段の脇で、小さい生まれたてのおぼこアカンボウが寝ていま
した。それで、
「これは、産土様の授けて呉クれたおぼこでしょう」
と言って、そのおぼこを拾って来ました。そして、爺様と婆様と、大しためご(めんこ
い)がって育てました。そうしたら、そのおぼこは、大した綺麗キレイな娘こになって、十
四五になって機ハタを織っていました。それで、その娘のことをうりひめこと名前こを付
けました。
 
 あるとき、爺様と婆様が外へ出掛けて行くことになったために、
「うりひめこや、うりひめこ、俺オレが居ないとき、誰が来ても、戸こを開けるなよ。ビ
ーンと鍵を掛けて、全マッタく戸を開けるなよ」
と言って、出掛けて行きました。うりひめこは、婆様が居ない後アト、戸へ鍵を掛けて、
「きーしかっか、おばなえや。とにねでぁ、おばなえや」
と、機ハタを織っていました。そしたらね、天の邪鬼アマノジャクが来て、戸をドンドンと叩タタ
いて、
「うりひめこや、うりひめこ、戸を開けろ」
と言いました。
「俺オレの家の婆様は、誰が来ても戸を開けるなよ、と言っていたもの」
と言うと、
「そうか」
と言って、戻って行きました。そして、今度は婆様の声色コワイロを使って、
「うりひめこや、うりひめこ、戸を開けろ」
と言うので、
「俺の家の婆様は、誰が来ても戸を開けるなよ、と言って行ったもの」
「俺は婆ババなので、戸を開けろ」
と言うので、
「婆様が来たか」
と戸を開けたら、婆ではなくて天の邪鬼でした。そして、入って来た天の邪鬼は、うり
ひめこに乱暴ランボウをする気になってかかって来たので、うりひめこが声を発タてたら、
天の邪鬼は、うりひめこを殺してしまいました。そして、うりひめこの代わりになって、
「でくだりばったり、でっちらでっちら」
と言いながら、機を織っていました。其処ソコへ婆様が戻って来て、その声を聞いて、「
何時イツものうりひめこと違うな」と思いました。急いで家へ入って見たら、天の邪鬼が
居て、機を織っているために、
「俺の家のうりひめこは何処ドコへ行ったのか」
と聞くと、
「婆様があまり遅いために、迎えに行ったのです」
「あや、そしたら何処へ行ったのかな。出違えたのか。俺も迎えに行こうかな。寒くな
って来たので、どんぶぐ(綿入れ半天)でも出して着て行こうかな」と箪笥タンスを開けて
どんぶぐを出す気になったら、うりひめこの頭がどんぶぐに包んで、箪笥に入れられて
いました。
「あや、仕方がないな、うりひめこが殺されていらあ」と腹の中で動転ドデンしました。
 
 天の邪鬼は、
「婆様や、婆様、寒くなってので、酒こを飲んで行ってよ」
と、茶碗を伸ノべて寄越ヨコしました(差し出した)。見たら酒ではなく、血であったので
した。
「これは、うりひめこの血だろう。俺の家のうりひめこを殺したろう。うりひめこは、
産土様の授けて下さった子供だったのに」
と言って、婆様と爺様とは、産土様へ知らせに行きました。産土様は、天の邪鬼を喚ヨ
んで、大した説教をしたけれども、天の邪鬼は腹這いハラバイになって、
「聞きたくない」
と耳を押さえたので、産土様はお姿を現して、天の邪鬼の背中にドンと足を掛けて、折
檻セッカンしました。
 どっとはらえ。
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