38 じごくぬりの話(八幡平小水沢)
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 狐の昔こ、一つ。
 ある年の冬、正月過ぎのことでした。谷内タニナイのさやのおどさんがな、小水沢コミズサワ
の大きい家の嫁取り振舞フルマイに呼ばれて、雪壷ユキツボを漕コぎ漕ぎ登坂沢トサカサワの渡りっこ
まで来たところ、狐二匹が沢の水鏡ミズカガミっこを見ながら、
「今日は小水沢の大きい家の嫁取り振舞があると云うので、坊様ボサマに化けて行って、
振舞っこをご馳走になろう」
と云いながら、右の耳に枯葉カレハこをピタッと貼り、左の耳に枯葉こ貼っては耳を隠し、
尾っぱこに枯葉こを貼って尾っぱを隠していました。
 これを見た谷内のおどさんが、小水沢へ来てその事を知らせたら、
「それは狡ズル賢い狐だ、ようし、どうして呉クれるか覚えてけつかれ(居やがれ)」
と言って、すぐさま長嶺ナガミネから、大きな犬を三匹借りて来て、戸の尻シリに隠して置き
ました。
 
 式も仕舞シマって、酒盛りこが始まった頃、豆絞りマメシボリの手拭テヌグイこを被って、ニギ
ョウの木の杖ツエを突いた、狐こが化けた坊様が二人来ました。
「よく来て給えたタモタ。さあさあ、まんず入って祝って給えタモレ」
と、下へも置かない持て成し振りブリに、坊様達は酒ことか肴サカナことか、沢山ご馳走に
なりました。良い機嫌になった坊様は、踊りこを踊ると、豆絞りの手拭っこを被り直す
拍子ヒョウシに、耳を隠した木の葉こがパラッと落ちて、右の耳こがピョコンと立って見え
ました。
「そうら、これは坊様でも何でもない、化け狐達だ。縁側の戸を立てろ、犬をけしかけ
ろ」
と、大騒動になりました。狐っこ達は化けの皮を剥ハがれて、犬に尾っぱことか足などを
かじられるなど青くなって間木マギへ上がり、煙ケムリ出しから盲滅法メクラメッポウ逃げて行き
ました。
 
 振舞こも仕舞ったので、次の日、谷内のおどさんが、家へ戻る気になって、黒坂の狐
の穴の下へ差し掛かったら、穴の中から何やら話し声が聞こえたために、コソッと側に
寄って、聞き耳を立てて居たら、
「やあや、本当に夕べはひどい目に遭アったな。危アブなく犬に噛カみ殺されるかと思った
な。憎たらしいったら、憎たらしいったら。このままなら悔しくてならないし、八森の
狐とか、赤沼の狐とか、山々の狐、沢々の狐達をみんな頼んで来て、今夜あの屋根でじ
ごくぬりをして呉れよう」
と、夕べユベナの狐達が相談こをしておりました。
 これを聞いた谷内のおどさんは、家へ行くのを止めて、コソッと小水沢へ引き返して、
この事を知らせました。
 
「それは大変だ。そんなに沢山の狐達によって、夜中ヨナカ中ジュウ、じごくぬりをされたな
らば、屋根も何も、給タマったものではない(持ち応えられない)。何とかしなければ・・・
・・・。ん、そうだ、そうだ」
と言って、すぐさま分家エッコの父アナ達を頼んで、竹槍タケヤリを沢山削ケズって貰モラって、家
の周りの軒下へ、逆さにグルッと立てて置きました。
 晩飯バンメシを食って暫くすると云うと、外の暗闇クラヤミを轟トドロかせて、家鳴りヤナリ振動
させて、
「ジゴゴゴゴーッ、ジゴゴゴゴーッ」
とじごくぬりが始まりました。そして明け方まで続く筈ハズのじごくぬりは、四半時シハン
トキもしたら、音も何にも無くなりました。
 次の朝間に起きて、外へ出て見たら、尻ケツから竹槍に串刺しになった狐達は、朝日に
照らされて、キロッカロ、キロッカロと逃げるもしないで、鳴くもしないでいました。
 あんまり質悪く(質タチが悪い)、何ぼもかぼも(何度も何度も)悪戯イタズラすると、と
んでもない目に遭アうものです。
 どっとはらえ。

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