35 狐と川獺カワウソ
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔、あったのです。
 ある処に、狐と川獺と居ました。狐は坊主負けズホウマケ・ジホマケ(嘘吐き)で、川獺は正
直でした。あるとき、狐が川獺に、
「川獺や、俺オレはお前の処へ、ご馳走なりに行きたいな」
と言いました。川獺は、
「ああ、来い、来い、俺は川の雑魚ジャッコを捕って待っている」
と言って、次の日、川へ行って、雑魚をいっぱい捕って来て、狐に腹いっぱいご馳走し
ました。狐は狡ズルくて、最後に残ったものまで、
「これ、貰モラって行く」
と、言って持って行きました。川獺は、
「狐よ、俺はお前の処へ明日、ご馳走なりに行く。お前の方だと山なので、雉キジでも兎
でも沢山あるだろうな」
と言いましたら、
「ああ、良いもなも、待っているから来い」
と言って、戻って行きました。次の日、川獺は「狐はどんなにか山の物を捕って待って
いるだろう」と思ってどんどん山道を走って、狐の家へ行きました。
 
 「狐や、俺は来たよ」
と、入って行ったら、狐は手胡座テアグラを構カいて、天井テンジョウを見たまま、パッと眼
マナグを開けて、黙ダマって上ばかり見ていました。
「狐、お前は坊主負けする気か。あれ位クライ約束したのに、何で黙っているのや」
と言っても、黙っていました。川獺は、呆アキれて戻ってしまいました。二、三日してし
まったら、狐はまた川獺の処へ来ました。今日キョウもまた、川獺から雑魚をご馳走になっ
て呉クれると思ったのでしょう。川獺は、
「狐、お前は何が気に合わないのだ。折角セッカク人が来たのに、騙ダマして」
と言ったら、
「川獺、今日はこの間の申し訳(お詫ワび)に来た。この間は家の神様に天井守りマブリせ
よと言われていたのだ。天井と言っても、まず、上を見て空守りをしていたのだ。今度
はご馳走するためにな」
「んだか、そんなら今日は折角来てお出でになったのだから、また川雑魚をご馳走する。
今度は騙すなよ」
と言って、またご馳走になって行きました。川獺は、今度こそ騙されないだろうと思っ
て、狐の家へ行って見たら、狐の野郎はまた、手胡座を構いて、じっと下を見て黙って
いました。「この野郎、何かぶっつけてやろう」と思って、
「狐、よくも騙したな」
と手柴テシバをぶっつけて、戻って来ました。
 
 狐がまた川獺の処へ来ました。川獺は「また来たか、よくも来たものだ」と思ってい
たら、
「川獺、この前は不調法ブジョホウした。丁度神様から土守りせよと言われて黙って下を向
いて拝んでいたのだ。今日はお前の家へ、ご馳走になりに来たのではない。雑魚の捕り
方を教えて貰いたくて来た」
「そうか、そうか、そんなことなら、なんぼでも教える。うんとしばれる日だと、しが
まこ(氷)が沢山流れるだろう。お前の大きい尾っぱこをその中に入れて待てば、どん
なにか雑魚が付くだろうに」
 
 狐は「そうだか」と言って、うんとしばれた日に川の中に尾っぱを入れて待っていま
した。そうしたら、しがまこがカラカラと流れる度タビに、尾っぱこにブルブルとぶっつ
かりました。
「これならどんなに付いたか分からない、雑魚はいっぱいついたろうな。尾っぱこが大
した重たくなった」
と少しばかり尾っぱこを揚げても、上がって来ませんでした。そこへまた、川獺が来て、
「狐、どんなにか雑魚が付いたろうな。ヤーンバセー。ヤーンバセー」
と囃子ハヤシました。其処へ、担カツぎ棒を担いで、川へ水汲みに来た男童子ワラシ達が居まし
た。見たら狐が尾っぱこを川に入れて、抜けないで、うるうるしている様ジャマを見て、
担ぎ棒で叩タタきに来ました。狐は狼狽ウロタえてボンボンと跳ねたら、尾っぱこが抜けて無
くなったそうです。
 そして、昔の狐は今の兎で、それで兎の尾っぱこは無いのです。
 どっとはらえ。
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