32 二人の爺な
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔、あったのです。
 爺ジイなと婆ババとありました。婆は座敷を掃いて、爺なは庭を掃いて居ました。そう
したら、豆っこ一つ見付けました。見付けたと思ったら、その豆っこは、鼠ネズミ穴へ入
って行きました。豆っこに付いて行って見たら、下に立派な家があって、
「豆っこも来たけれども、鬼達は博打バクチ打ちに来るために、梁ハリに上がって、鶏トリっ
この真似マネしてござれ」
と言われました。「よし」と思って、梁に上がって待っていたら、鬼達がいっぱい来ま
した。そのために、時間も経タった頃なので、と思って、鶏っこの真似をしました。三番
鶏と言えば、行くために、
「コケコッコー、一番鶏」
と言いました。また少し経ってから、
「コケコッコー、二番鶏」
 
 三番鶏を歌ったら、鬼達は、
「夜明ける。明るくなれば大変だ」
と、みんなは出した銭ゼンこを仕舞シマわないで、そのまんま行ってしまいました。爺なは
その銭こをいっぱい貰って、家へ帰って来ました。貰って来た銭こで旨い物を買って食
って居ました。そうしたら、隣の爺なが、
「火っこ、呉クれて給えタモレ」
と言って来ました。「火っこ呉れるけど、俺オレの家で、豆っこの後アトを追って行ったら、
銭こをいっぱい貰って来た。それで旨い物を買って来て食っているところだ。入って食
ってござれ」
と言いました。それならと言って食って行きました。隣の爺なは、家へ行って、俺もと
思って、
「婆、座敷を掃け、俺は庭を掃く」
と言って、無い豆を無理ムリに見付けて、入らない穴に入れてやって、自分も入って行け
ないために、婆から尻ケツを押して貰って入りました。
 
「豆っこが来ていないだろうか」
「豆っこも来ていたけれども、博打打ちが来るために、三番鶏と言えば、博打打ち達は
行くために、梁に上がって、鶏っこの真似をしてござれ」
と言いました。「よし」と思って、梁に上がって鶏の真似をしました。そして、三回歌
いました。鬼達は、みんな明るくならないうちに行くと言いました。一番後アトに子っこ
鬼が残りました。子っこ鬼はあんまり急いだところで、閂カンヌキに耳を引っ掛けました。
振り回したけれども、外ハズれませんでした。あんまりおかしくて、爺なは笑いました。
そうしたところで、「これは鶏ではない、人間だ」と言って、鬼達に叩タタかれたのです。
血みどろ気になって来ました。そしたら、婆がそれを知らないで、
「あら、俺の家の爺なは、赤い木綿モメン(着物のこと)を貰って来たのかい」」と言いま
した。まず、人の真似をするものではない。
 どっとはらえ。
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