31a 小坊コボウっこと三枚のお札
それからまた、ずっと歩いて、やっと大きな家に着きました。姐さんは、
「此処ココが俺の家だ。入れ」
と言いました。姐さんのことを見たら、今までの姐さんとは、別の人見たいで、鬼見た
いに見えました。小坊は「これは大変な処へ来てしまった。何とかして逃げなければ」
と思っていました。そこで小坊は、
「姐さん、ババ(大便)が出たから、便所へ行って来る」
と言いました。そしたら、姐さんは、
「小坊! 逃げる気だな。待てっ」
と叫んで、小坊の腰に縄を付けて、その端ハジこを自分が持って、
「さあ、行って来い。逃げる気になったって、逃がさないぞ」
と言いました。小坊は仕方無く、縄を引きずって便所へ行って、考えました。
「そうだ、そうだ、和尚さんから、お札を貰ったな」
小坊は腰から縄を解トいて、便所の柱に縛シバって、その柱にお札を一枚貼って、こっそ
り逃げました。小坊の便所が長いために、姐さんは、
「小坊や、小坊、ババは良いか」
と呼びました。そしたら、便所から「まーだ」と聞こえました。また暫くして「小坊や、
小坊、ババは良いか」と言えば、「まーだ」と言いました。姐さんが怒って、いきなり
縄を引っ張りました。そしたら、柱が外れて、便所がゴロンと転びました。
小坊はとっくに逃げて、お札が「まーだ」と返事をしていたのでした。姐さんは怒っ
たのなんのって、あんまり怒ったために、本当に鬼になってしまいました。そしてまた、
小坊を追い掛けました。
「小坊、待て! 捕ツカまえて頭から食ってやるから、待てー」
と叫びながら、追い掛けました。
小坊は一生懸命走ったけれども、未だ子供なので、相手は鬼だから、すぐに捕まりそ
うになりました。そこで小坊はお札を一枚出して、
「此処ココに、大きな川が出張デハれ」
と叫んで、お札を後ろに投げました。そうしたら、一時イットキの間(イットコマ)に、大きな川
が出来て、ドウドウと水が流れました。鬼は「何だ、こんな川」と言って入ったけれど
も、流されてしまうし、深い処で「アップアップ」なりました。
小坊はその間に、一生懸命逃げました。鬼は流されながらも、やっとこさ川を渡って、
また追っ掛けました。
「小坊、待てー」
鬼の足が早くて、また、捕まりそうになりました。
小坊は、残っているお札を一枚出して、
「此処に、大きな砂山が出張れー」
と叫んで、後ろへ投げました。そうしたら、小坊と鬼の間に大きな砂山が出来たのです。
鬼は登る気になれば、ズルズルと砂が崩れて、なかなか越えられませんでした。
その間に小坊は馳ハせて、馳せて、とうとうお寺に着きました。
「和尚さん、今鬼に追っ掛けられて来たのです。早く戸を開けて下さい」
と叫びました。和尚さんは寝ていたけれども、小坊はどんどんと戸を叩タタいて、
「早く、早く、鬼は其処まで来たのです」
和尚さんは「今、着物着て」「今、帯締めて」と言いましたが、小坊は「早く、早く
」と言うために、やっと戸を開けて、押入オシイレに隠しました。
和尚さんは炉端の前に座って、餅を焼いていました。其処へ小坊を追っ掛けて来た鬼
が来たけれども、そのとき、綺麗な姐さんになって来ました。
「和尚さん、小坊が来たでしょう」
と言ったら、和尚さんは、
「いや、来ないよ。それより餅でも上がれ(食べれ)」
と言って出しました。そして、
「お前さんは、何にでも化けられるだろう」
と言ったら、
「うん、何にでも化けれる」
和尚さんは、
「それでは、大きくなってみて」
と言ったら、どんどん大きくなって行くので、
「ああ、よいよい、今度は小さくなって呉れろ」
と言いました。姐さんは、ずんずん小さくなって行くので、そこで、和尚さんは、
「ああ、分かった、分かった。今度は味噌ミソになってnて呉れろ」
と言ったら、皿の中に「こてっ」とした、味噌になりました。和尚さんは急いで、餅に
味噌を塗って、むしゃむしゃと食ってしまいました。
どっとはらえ。
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