25 ねずみのねの字は子どもの子(八幡平)
参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
昔、ありました。
ある処に人が良くて、稼カセぎ者でいて、何時イツもニコニコしている爺様ジサマと、気持
この優しい婆様バサマが居ました。
若いとき、二人してせっせと稼いで、誰とも喧嘩ケンカをしないで仲良く暮らしていまし
た。
春になって、桃の花こが咲いたり、鴬ウグイスが鳴いて、山こも水こもお日さんに当たっ
て、良い気持こであったとき、
「婆様、今日キョウ久し振りに山へ行って、柴を刈って来るために、握ニギり飯マンマを握って
呉れろ」
「はい、はい、本当に久し振りですね。鴬とか、山の兎ウサギなどは喜ぶでしょう」
と婆様は、大きい握り飯を二つ拵コシラえてくれました。爺様はにぎり飯を風呂敷に包クルん
で、山道を「ウントコショ、ウントコショ」と登って行きました。
若いときから稼いだ山で柴を刈って、昼間頃、柴の束が出来たために、婆様の拵えて
呉れた握り飯を出したら、どうした弾ハズみか、握り飯はコロコロと転がって、薮ヤブの
中のちっちゃな穴こへ「オニギリコロリンスッテントン」と、落ちて行ってしまいまし
た。
爺様、動転ドデンして穴こを覗ノゾいたら、また、もう一つの握り飯も「オニギリコロ
リンスッテントン」と、穴こへ入って行ってしまいました。
爺様は「こりゃ、おかしい事だ」と、暫く考えていたけれども、その穴この上に、握
り飯を包んだ風呂敷をフワッと載せて見たら、「あやや、不思議なこと」、風呂敷も「
フロシキコロリンスッテントン」と、穴こへ落ちて行ってしまいました。
爺様は益々不思議に思って、今度は爺様がその穴この上に立って見たら、あや不思議
なこと、爺様も「ジジイコロリンスッテントン」と穴この中へ入ってしまいました。
穴こへ落ちた爺様は、暫くしてから気が付いて、周りをキョロキョロと見渡したら、
大きくて立派な座敷の真ん中に、尻餅を突いて座っていました。よくよく辺りを見たら、
部屋の中にも、隣りの座敷にも、首から上がネズミの娘ことか、姐アネさんとか、男達が、
沢山居ました。「いやいや、これはどうしたものだろうか」と爺様は辺りばかり見てい
ました。
そしたら、其処ソコへ大きな男ネズミが出て来て、爺様の前に座って、
「これはまた、爺様ジイサマ、よく来て下さいましたね。先サッキダから握り飯マンマのご馳走有
り難う御座います。今日は息子の嫁取りで、山のネズミ達皆集まって祝い事をしている
ところです。何とか、あちらへお出でになって下さい」
爺様も、
「それは目出度い。それでは、上がりましょう」
と言って、ネズミの後ろに付いて行きました。
行って見たら、爺様はもっともっと動転しました。畳が百畳も敷けるような大きな部
屋に、蝋燭ロウソクを何百本も立てて、昼間見たいに明るくして、何百匹だか数えられない
程、着物を着たネズミが居ました。
人間のやる嫁取りと、何も変わりが無くて、お膳こも、料理こも作っていました。
「爺様、どうかして、此処ココに座って下さい」
と、上カミの方へ案内されて座ったら、先のネズミが出て来て、
「爺様、大きい握り飯のお陰で、今度のご馳走が出来たのです。風呂敷は、みんなの着
物にして着ているのです。本当に、有り難う御座います」
と丁寧にお辞儀ジギをしました。
爺様ジサマがよく見たら、矢っ張り爺様の風呂敷の柄ガラとか、色などが、ネズミの着物
になっていました。爺様はネズミ達から、代わる代わるご馳走を進められて、爺様も、
ネズミ踊りに合わせて踊り出しました。
♪ねずみのねの字は子どもの子
子ども孫ひこペロペロリン
やしゃ子ちぢれ孫ゾロゾロリン
オニギリコロリンスッテントン
ジジイコロリンスッテントン
爺様もネズミも手を叩タタいたり、足を鳴らしたりして踊りました。
あんまり踊り過ぎて、強コワくなった(疲れた)爺様は、
「家に行く」
と言いました。
ネズミ達は、大きい箱に土産をいっぱい詰めて、爺様へ背負わせました。爺様は、う
んと重たい荷物を背負って歩く気になったら、どうしたものだか前にのめってしまいま
した。そうしたら「ジジイコロリンスッテントン」と、爺様は昼間に握り飯を食う気に
なった処へ、尻餅を突いて座っていたと云います。
爺様はあんまり不思議で、何回も目マナグを擦コスって辺りを見たけれども、矢っ張り何
時イツもの山の中でした。
「日暮れになったし、さあ、婆様が待っているだろう。早く帰ろう」
と言って、重たいネズミの土産を背負って、山道を下って来ました。
家へ帰って来た爺様は、婆様に今日のことを言って聞かせたら、婆様は、なかなか本
当にしなかったけれども、土産を開けて見て、動転して、
「不思議で、不思議だ」
と言いました。
土産の中に、絹糸とか金糸キンシや銀糸で織った錦織ニシキオリ、木の実や木の皮で拵コシラえた
山の珊瑚サンゴなど、それは珍しい宝物ばかりでした。
この話こを聞いた辺りの人とか、遠くからわざわざ宝物を見に来る人に、爺様も、婆
様も、何時も愛想アイソ良く、同じ話を何度も教えしたものでした。
どっとはらえ。
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