23 下タ町の狐(花輪)
参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
昔の話っこです。
昔、昔、花輪の新田町に、大した裕福ユウフクな家がありました。
あるとき、お振舞フルマイをして、そのご馳走を錦木ニシキギの親戚シンセキまで届けることにな
りました。
そこで、使っている若者のことを喚んで、用を言い付けてから、
「この頃下タ町に、人のことを騙ダマす狐が出張るデハルそうだから、気を付けて行けよ」
と言いました。若者は、
「誰が、俺騙されるって(俺は騙されない)」
と言って、出掛けました。そして下タ町まで歩いて来ました。
今だと下タ町には何軒も家が建っているけれども、当時は見渡す限りの田圃でした。
その田圃のどっちからか、
♪ピイシャラドンドン
スットコドゴスコ オンゴンゴン
さあさあ ギャンギャンギャン
と、歌ったり踊ったり、囃子ハヤシたりするのが聞こえて来ました。
何処ドコから聞こえて来るのだろうかと、耳っこを澄まして辺りを見たら、田圃の中に
一軒家があって、其処ソコから聞こえて来るのでした。若者は、
「狐め、俺が来たのも知らないで騒いでいるな。ははぁ、狐の嫁取りだな。狐の嫁取り
とは聞いたことがあるが、未だ見たことは無い。どれ見て見るか」
と、コソッと近寄って行きました。ところが、その家は不思議なことに、何処にも入口
も窓も無かった。中から、いよいよ、
♪ピイシャラドンドン
スットコドゴスコ オンゴンゴン
さあさあ ギャンギャンギャン
と聞こえて来るし、若者は見たくって見たくって、ご馳走を下に置くと、何処かに節穴
っこが無いだろうかと、その家の周りをグルグルと回って探しました。けれども、なん
ぼ探しても探しても、節穴は一つも有りませんでした。そしているうちに、
「お前さん、お前さん、何しておられるのですか」
と声を掛けられました。若者はハッと気が付いて見たら、何と田圃の真中に繋いであっ
た馬の周りを、グゥルグゥルと回っていました。
そうしてな、ご馳走はとっくの昔に無くなっていました。
どっとはらえ。
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