2101山田の狐(八幡平)
 
                       参考:鹿角市発行「八幡平の民俗」
 
 昔ある処に、狐が化けて、大失敗した話があった。俺方オラホウの山田と云う処に、めっ
こ(目が見えないこと)爺こ居た訳だ。左眼がめっこだそうだ。
 そして、めっこ爺こが、マチ(市日)の度に花輪へ行って魚こを買って、婆の処へ持
って来ていたそうだ。あるマチの日に、魚を買いに行くとき、狐と行き違ったので、び
っくりさせて、花輪へ魚を買いに行ったそうだ。
 狐の野郎は、びっくりさせられたために、その前に家へ行って、婆の野郎をびっくり
させて、目(困難なこと)に遭わせて、仇を討つ気になった訳だ。それで爺こに化けて、
家に来たそうだ。行き会ったとき、真っ直ぐ見たら、左眼でなく、右眼をめっこにして
狐が来たそうだ。
 
「婆や、今来た」
「おや、爺、早いこと」
と、一寸見たら、やはり眼は、反対がめっこになっていた。
「この野郎、狐が俺のことをだましに来た」
と思った訳だ。
「爺や、どうした、何や」
「魚を買って来た」
 魚ツト(稲藁で作った入れ物)をどんと置いたそうだ。
「おや、魚を一杯買ってきたこと。爺こや、これはどうしたことか」
「何時もの通りや」
「ああ、そうだなぁ、爺は来れば何時もの通りなら、また寝ると言うのだな」
「そうだよ、何時もの通りや」
「爺や、寝れば足が寒い。叺カマスに足を入れると言うのだな」
「そうだよ、何時もの通りや」
 婆は、叺を持っていって、雑草を少し入れて、
「爺や、これに足を入れて寝るのでしょう」
「そうだよ、何時もの通りや」
 そして、枕を持ってきて、狐の爺は叺に足二本を入れられて、まず寝かせてそうだ。
 
「爺や、お前はまた、俺に足をまるけ(結べ)と言うのだな」
「そうだよ、何時もの通りや」
 また、言ったそうだ。今度は婆は叺に二本入れた足を、キリキリまるって、
「爺や、未だ強くまるけと言うのだな」
「そうだよ、何時もの通りや」
「爺や、寝た、寝たと言えよ」
「何時もの通りや。寝た、寝た」
 
 そうしているところへ、本当の左眼の爺が来たそうだ。
「婆や、今来た」
「おや、爺や、もう一人居たよ」
「おや、どうしたのだ、それは」
 行ってみたところ、狐は反対の眼をギロリとさせて、寝ていたそうだ。そして、家の
蔭に逃げようとしたところが、叺に足を二本入れられて、どうしようもなく、ビンとま
るかれて、婆によって目に遭わされて、それから狐は(化けて)出なくなったと云う。
どっとはらえ。

[次へ進む] [バック]