21 いつもの通りと言う狐(八幡平)
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔昔、ある村っこから半里ばかり離れた処に、一軒家がありました。左の目マナグが潰
ツブれた爺様ジサマと婆様バサマが、仲良く暮らしたいました。
 ある日のことでした。爺様が、
「婆ババ、婆、今日キョウ花輪の町へ行って、魚っこを買って来るために、留守して居て呉
れ」
と言って、出掛けて行きました。
 夕方になりました。婆様が、
「晩方になったので、そろそろ爺様が家に来る頃だな」
と独り言を言いながら、土間を掃いていました。そしたら、
「婆、今来た」
と、爺様が入って来ました。婆様が爺様の頬ツラこをひょいと見ました。そうしてら、左
の目が潰れていないで、右の目が潰れていました。婆様は、
「ははん、狐が化けて来たな。狐の畜生、人のことを馬鹿にしておいて、化けの皮を剥ハ
がして呉れる」
と思いました。婆様は知らない振りをして、
「爺様、早かったな。何時イツものように、買って来た物を見せて呉れないか」
と言いました。そうしたところで、狐が化けた爺様が、何と言ったらよいか分からない
ために、「何時もの通りや」と言っておけば良いだろうと思って、
「何時もの通りや」
と言って、座敷へ上がりました。婆様が、
「爺様、何時も町から来れば、すぐ寝ると言うけれども、今日はどうしよう」
と言いました。すると、爺様は、
「何時もの通りや」
と言いました。
 
「床を敷いたけれども、すぐ寝るのですか」
「何時もの通りや」
「爺様、寝ると足が冷シゃっこいために、叺カマスに足を入れると言うけれども・・・・・・」
「何時もの通りや」
「石を枕にして、金槌カナヅチを置けと言うけれども・・・・・・」
「何時もの通りや」
 狐が化けた爺様は、本当の爺様が、どうして暮らしているか分からないために、婆様
に騙ダマされてしまったのでした。足を叺の中に入れられて、びっしりと縛シバられてし
まいました。婆様はまた、
「爺様よ、床に入ると目を閉じて、寝ているけれどもね」
と言ったら、狐の爺様は目を閉じて眠った振りをしました。
 婆様は「今だ」と思って、狐の爺様の上に馬乗りになって、いきなり金槌で力いっぱ
い頭を叩タタきました。石の枕をしていた狐は、
「ギャッ」
と一声挙げて延びてしまいました。
 
 そこへ、左の目の潰れた本当の爺様が、
「婆、今来た」
と入って来ました。そうしたら、婆様が、
「爺様、爺様、もう一人の爺様が来ている。今寝床に寝ているけれども見るか」
と言いました。
 「俺の家の婆様は、おかしいことを言うな」と思ったけれども、寝床へ行って見まし
た。すると、右の目が潰れているけれども、自分とそっくりな爺様が寝ていました。爺
様は、動転ドウテン・ドデンして、
「んにゃ、これはどうしたことだ」
と言いました。それで、婆様は今までのことを教えました。
「俺の家の爺様は、左の目が悪いけれども、死んでいる爺様は右の目だろう。それで、
これは狐が化けて来たなと思ったのです。この狐は、何時も人を騙している狐でないで
しょうか。外へ出せば、きっと正体を出すと思うけれども」
と言いました。それで、爺様はズルズルッと引っ張って、縁側から転がすと、段々狐に
なって行きました。
 爺様と婆様は、狐汁にして食ってしまったと云います。
 どっとはらえ。
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