20 猫じゃ踊り
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔、昔、或るいい月夜の晩バンゲでした。この頃、
「月の良い晩に、お寺の後ろの墓所ハカショで、何か騒いでいる音がする」
と、村の人達がみんなで言っていました。
 それでも、寂しい墓場のことなので、誰も、調べて見ることはしませんでした。
 そのとき、村でたった一軒の魚屋では、不思議なことが問題になっていました。それ
は、魚屋には、一つになる女の子が居たけれども、朝間になればその子の着物が、何時
イツも夜露に当たったように濡れていました。
 家の人達は、
「夕べはな、ちゃんと(鍵を)掛けて置いたのに」
とか、
「寝るときに、枕の側にちゃんと畳タタんで置いたのに」
とか言って、何して濡れているのか、誰も分かりませんでした。
 
 魚屋のお兄さんが、
「よし来た。俺は晩に着物の番をして、確かめて見よう」
と言いました。月の良い晩に、お寺の後ろで何かあると聞いていた家の人達は、何が関
係があるようだと思っていましたが、元気の良い今年二十五になる兄さんだし、きっと
着物が濡れる訳が分かるだろうと思っていました。
 晩の十時になりました。電灯も無いし、自動車も無い昔の事ですから、村の中はとっ
ても静かで、谷間の村ではお月さんばかり動いていました。本当に静かでした。
 
 魚屋の兄さんは、寝床ネドコの戸を開けたまま、子供の着物が見える処で、ゴロッと横
になっていました。
 「さて、何があるのかな」
静かな中で物音一つ聞き逃さないように、気を付けていたら、もう一時間も過ぎていま
した。
 そのとき、寝床の障子に何か触りました。よくよく見ると、魚屋が飼っている今年十
三になる猫ネコでした。
「あっ、ミケが」
と見ていると、ミケは子供の着物の側へ行って立ちました。
「まさか、ミケの悪戯イタズラでもあるまい」
と思っていると、ミケは大きい身震いをしたかと思うと、女の子位の人間になりました。
 
 「おお、化け猫め」
と飛び掛かろうと思いましたが、
「待て、待て、お仕舞いまで見よう」
と思って、息もしないで見ていました。
 猫はとっても静かに着物を着てしまって、外へ出て行ってしまいました。
 兄さんは猫に分からないように、後アトを付いて行きました。猫はぐんぐん足早アシバヤに
歩いて、お寺へ行きました。そして、お寺の脇を通り抜けて、お墓の広場へ行きました。
 猫に分かられれば良くないと思って、兄さんは墓石の陰に隠れて、段々広場へ近付い
て行きました。
 すると、其処ソコにはミケと同じように、着物を着た化け猫が何と八匹も居ました。そ
して、どれも二つか三つの男の子、女の子の着物を着て居ました。
 
 ミケがその仲間に入ると、
「みんな待たせたな、今夜は熱い飯メシに熱い汁を掛けられたために、飯を食うのが遅く
なって遅れた。お陰で舌を焼いてしまった」
と、掠カスれた声で言いました。辺りの猫も、
「何としても来るだろうと思って、待っていたのだ」
と言いました。
 そのうちに、何処の猫だか、一番大きな男の子に化けた猫が、
「さ、魚屋のミケも来たし、そろそろ始めよう」
と言って、立ち上がりました。
 
 どの猫も、下駄ゲタを履ハいていました。そして、手拭いを出して頬被りホオカブリをしま
した。
「猫じゃ、猫じゃと可笑オカシくて。猫が、猫が杖ツエ突いて、下駄履いて、絞り浴衣ユカタで
来るものかなあ」
 カラリン、カラリンと手拍子、足拍子面白く踊り出しました。
 お月さんが、静かに西の方へ行きました。辺りから何にも音がしない墓場の中で、元
気者の魚屋の兄さんも、気味が悪くなったから、元モト来た道を猫に分からないように、
家へ帰ったと云います。
 夜が明ける少し前に、ミケが帰って来ました。
 朝飯ママのとき、みんなは昨夜ユベナは何も無かったようにしていました。
 ミケも、目マナグを細くて、何も知らない顔をして、飯を食っていました。
 どっとはらえ。

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