19 飯ママ食カねぇ母(妻)アッパ
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔にな、ある処に父オヤジと母アッパと息子の三人が居ました。妻アッパに死なれたので、
息子の太郎次を預かって、麹コウジ売りしていました。そして、
「俺は、飯を食わない妻が欲しい」
と、尋ねて歩いていました。そこへ、
「俺、飯を食わないから、妻にして呉れろ」
と女オナゴの人が訪ねて来ました。
「よし、よし、飯を食わないのなら、妻にして呉れる」
と、妻にしました。
 
 毎日、飯を食う時になれば、その妻は、
「俺、太郎次を案じて、飯を食えない」
と言う訳です。
 けれども、父は麹売りして帰って来ると、米がずんずん足りなくなっていました。「
おかしいな」と思いながら、次の日、また麹売りをして帰って来ると、
「太郎次を案じて、飯を食えない」
と言う訳です。
「おかしいなあ」
と父は、今日は麹売りに出た振りをして、家へ戻って梁ハリに上がって、隠れて見ていま
した。
 
「今日も父が出て行って居ないから、いい塩梅アンバイだ」
と、小屋から米の三升も出して来て、飯を炊いて、今度はドアッと長い髪を被カブって、
大きい口をドアッと開けて、飯を掴ツカんで、ドンドンドンドンと口へ入れてやる訳です。
父はおっかなくておっかなくて、ブルブル震えていましたが、まず黙って知らない振り
をして戻って来ました。そして、飯の時になったら、
「俺、太郎次を案じて、飯を食えない」
「何、太郎次を案じてか。人が居なくなれば、一回に三升も飯を炊いて食う奴、何を言
うてるのか」
と怒りました。妻も、
「あれ、覚えられたか」
と、今度は、
「俺の頭に、胡麻ゴマの油を撒マいて呉れろ」
「お前に薄頭に胡麻の油、それなのに何のために付けるものかよ。隠地カクチの畑へ、茄子
ナスや唐辛子を植えて、隣へ呉れてやれば、有り難いのお礼の一つも述べられるのに、何
のためにお前の頭に胡麻の油などを付けてやるか」
「それもそうだなあ、そうしたら、俺は里帰りするので、餅を搗ツいて、木櫃キビツに入れ
て、送ってやって呉れないだろうか」
と言いました。
 
 そして、餅を搗いて、木櫃に入れて山へ送って行きました。
「此処ココだか」
「未だ、未だ」
と、何処ドコまでも山へ入って行きました。余程ヨホド奧へ入ったところで、木櫃をドンと
置いて、父はどんどんどんと逃げて行きました。
「あや、あや、逃げて行ったな。今に捕って食って呉れると思っていたが、逃げたな」
 父は、何処までも何処まだも逃げましたが、これは大層タイソウな事であると、途中で菖
蒲ショウブと蓬ヨモギの原っぱの中に隠れました。其処へ妻が来て、
「この中に隠れたと分かっているけれども、菖蒲と蓬に触れれば、体が腐って溶けるた
めに、入られない」
とぐるぐる回って、戻って行きました。
 だから、飯を食わない妻を欲しいなどと、欲張りな事を考えるものではないよ。
 五月の節句セックに、菖蒲と蓬で戸窓塞ぎフサギをするのは、魔物マモノが家の中に入らない
ようにするものなのです。
 どっとはらえ。
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