16 狐の恩返し(長嶺)
参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
昔、長嶺の爺様ジサマが花輪の町の日(市日)へ行こうしてと、一の渡りの橋の袂タモトま
で来たら、川の処に死んだ馬が斃タオれていました。そして、烏カラスがいっぱい寄って来
て、その死んだ馬のことを突っついて喰っていました。ひょっと見たら、その脇で痩せ
た子っこの狐が一匹居て、烏達が喰うのを恨めしそうに見ていました。それを見た爺様
は、
「可哀想だなあ、子っこ狐よ」
と思いました。それで、その死んだ馬の一番旨そうな股の肉を思いっきり剥ハいで、
「そらっ」
と、狐こへ投げてやりました。するとその狐こが喜んでその肉をくわえて、後見アトミ後見
して、「シワの前」の方へ行きました。「シワの前」の方に稲荷さんがあるのです。
それから、爺様が花輪の町の日で、買い物をして帰って来ました。丁度「シワの前」
の処に来たら、今朝の子っこ狐と親狐とが居ました。
そして親狐がね、
「爺様爺様、俺の家の子っこ、今朝大したご馳走を貰って、有り難う御座います。それ
で何とかして俺の家へ、一寸チョットの間寄って下さい」
と言いました。爺様は、
「んにゃ、俺は狐の家だと行けないな」
と言いました。狐が、
「んにゃ、何ともない。一寸の間俺の尾っぱに掴ツカまって、目マナグを瞑ツブって下さい。
そうすれば俺の家へ行けるために」
と言いました。そこで、爺様は狐の尾っぱに掴まって、目を瞑って行ったら、一寸の間
したら、
「爺様、あとは良い。俺の家は此処ココなので、目を開けても良い」
と言いました。爺様は目を開けて見たら、狐の穴の中は広い座敷になっていて、そこへ、
「まず入って下さい」
と言われました。そして、
「今朝、俺の家の子供が助けられて、ご馳走を貰って、本当に有り難う御座います。何
にも無いが俺の家のご馳走を食って下さい」
と言って、沢山ご馳走になりました。
そして帰りに、
「何にも良い物が無いけれども、この玉をお礼に上げるために持って行って下さい。こ
の玉を持っていると、欲しい物が出て来て、死ぬまで幸せに暮らすによいので、土産に
持って行って下さい」
と、光る玉を貰いました。爺様はその玉を貰って、また尾っぱに掴まって帰って来まし
た。何時イツの間にか「シワの前」に来ていたので、夢だろうかと思ったが、玉はちゃん
と持っていました。
爺様はその玉のために、死ぬまで幸せに暮らしたと云います。
どっとはらえ。
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