15 坊様ボサマの花嫁(花輪)
参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
昔、ある大百姓がどうした弾ハズみか、腰をギックラッとして歩くことが出来なくなり
ました。そうしたら、隣村にとっても上手な坊様(めくら)が居て、その坊様に治して
貰った方が良いのだと皆が言ったので、その坊様を頼んで来ました。
「坊様、坊様、この俺の腰を治して呉クれれば、銭ゼンこなら幾らでも払うために、何と
かして早く治して給えタモレ」
と言いました。そうしたら、坊様こは、
「ううん、銭こなら要らない。此処ココの家の姉さんを俺の嫁こに呉れるのなら、その腰
をすぐ治して上げる」
と言いました。「あんや、この坊様は、坊様の癖して、狡ズルいことだ」と思ったが、「
どうせ坊様のことだ、目マナグが見えないのだから、どうにかなるだろう」と思って、療
治リョウジして貰ったら、本当にペロリッと治りました。これなら「どうしても娘こを呉れ
てやらなければならない」と思って、その大百姓が坊様へ言いました。
「坊様、坊様、本当にお陰でした。これなら、娘を嫁にやらなければならないが、目
が見えないと、連れて行くにも容易でないだろうから、長持ナガモチに入れて送らせる、そ
れで良いかい」
と言ったら、坊様は、
「あやや、そうやって貰えば、うんと有り難いな」
と言って、長持へ花嫁こを入れて貰って、家へ帰って行きました。さあ、坊様は面白く
て面白くて、家へ着くとすぐに長持の蓋フタを取って、中に手こを入れました。そしたら、
固くて、尖トガってすべすべした物が手に触れました。坊様は、
「あああ、簪カンザシを刺して来て呉れたのだ」
と言って、喜びの声を挙げて、体を撫でて、
「うんにゃ、うんにゃ、ビロードのべべ(着物)を着て来たのかな」
と誉めて、段々下の方へ撫でて行ったら、
「あやあや、搗ツきたての餅まで入れて寄こして呉れたのだなあ」
と感心した途端トタン、それまでジッと長持の中で寝そべっていた牛ベコが、
「モー」
と、大きな声を発タてながら立ち上がったので、びっくりしてひっくり返った坊様こは、
大きな声で叫びました。
「大変だ。俺の家の嫁っこ、牛になってしまったのじゃ」
どっとはらえ。
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