1301猿とり地蔵(八幡平)
 
                       参考:鹿角市発行「八幡平の民俗」
 
 今日もまた、折角お盆の仏様にお供えしようとした西瓜もトマトも、畑のものが手当
たり次第山猿の大群に荒らされてしまった。
 年老いた農夫が、婆様と猿達の悪口を言っていた。
「爺様よ、一層のこと猿を捕まえて猿汁を食べようか」
「ん、俺もどうして猿を捕まえるか考えているのだ」
「爺様や、良い工夫がある。よく猿の奴らが傘松の下のお地蔵様の処で遊んでいるので、
一つお地蔵様に化けて、猿めが側へ寄って来たら捕まえるとしたらどうだろう」
「そうだ、俺もそれを考えてみた。お地蔵様に化けるには、体を真っ白にしなければな
らないなァ」
「爺様や、それは簡単だ。裸で水を被り、身体中へ米の粉を付けて座っていれば、お地
蔵様になるでないか」
「んだ、それで良いだろう」
 爺様と婆様は早速その支度に取りかかった。
 段々畑の上にある傘松の下に、真っ白い爺様の地蔵が、本物のお地蔵様を藪の中に隠
して、ちょこんと座って、猿の来るのを待っていた。
 
 いつものように猿の大群が嵐のような、サッサッサ、ザワザワザワと云う音と共にや
って来た。
 親分猿がお地蔵様の隣りにドッカと座って、大勢の猿を見渡している。
 ほかの猿達は、トマトや茄子や胡瓜などをボリボリムャムシャ喰いながら、親分猿の
方をキョロリキョロリと見ている。
 そのうち一匹の小猿が、親分猿や他の猿に向かって、
「おいみんな、このお地蔵様を山奥の猿の国へ運ぼうではないか」
と言った。親分猿を始め猿達は、
「それがいい、そうしよう」
と話が決まった。
 
 さあ、猿達は座っているお地蔵様を担ぎ上げた。そして爺様地蔵を運び出したのであ
る。
 少し行くと川に出た。この川を渡らなければ猿山へ行けない。猿達は首まで川に入っ
ていったが、親分猿が、
「猿のけっち(尻)が濡れても、地蔵のけっちは濡れるな」
と言うと、猿達は一斉に、
「猿のけっちが濡れても、地蔵のけっちは濡れるな」
と繰り返し繰り返し歌いながら、とうとう川を渡ってしまった。何度も振り落とされそ
うになったが、爺様は右の手も左の手もお地蔵様そっくりに曲げたまま、猿の肩に乗っ
てとうとう猿山へ着いた。
 
 日も暮れそうになったので、帰ろうと考えたが、猿の世の中を見たくなった爺様地蔵
は、咳一つしないで猿の様子を見ていた。
 驚いたことに、猿山の中に猿酒があるし、果物が沢山あり、そして猿の仲が大変良か
ったことだ。
 大きなに岩蔭に怪我をした猿が寝ていて、他の猿が替わり番に介抱しているのが見え
る。きっと里へ行って悪戯をし、石でもぶっつけられたのだろう。相当に大きい怪我の
ようだ。
 そのうちにキャッキャッの猿話も静かになって、どこかへ行ってしまった。
 爺様地蔵はそっと立って、さっきの岩蔭に行ってみると、一匹の猿が背骨の辺りが真
っ赤に血が出て死んでいた。爺様は、
「殺すのも可哀相だし、怪我で死んだものを持って帰ろうか」
とその猿をぶら下げて家へ帰った。
 
 婆様に猿山の様子や、猿の暮らしを話しながら、二人は珍しく猿汁を食べていた。
 そのとき、
「ホコ(火種)下さい」
と隣の婆さんがやって来た。
「うん、火種もやるけれど、猿汁も食って御座れ」
と言うと、隣の婆さんは座敷へ上がり込んで、
「旨いこと旨いこと」
と何杯も食べた。、そして、
「爺さんが待っているだろうから帰ろう」
と言ったので、婆様は、貝焼鍋に猿汁を入れて、
「そなたの爺さんに持っていって御座れ」
と猿汁を分けてやった。
 
 欲の深い婆さんは、自分の家へ帰る途中、先程の猿の肉があんまり旨かったので、肉
をすっかり食べて、爺さんへは猿汁の汁だけを持って行った。
 爺さんがその汁をすすりながら、
「つゆコでもこんなに旨いのに、肉ならどんなに旨いだろうな」
と言いながら、その汁を食べてしまった。
 欲の深い婆さんは、隣の爺様や婆様から聞いた話を爺さんに教えて、
「爺さん爺さん、そなたも行って猿を捕ってきて下さいな」
と言った。
 
 爺さんは、婆さんに勧められて、隣の爺様の真似をして山へ出かけた。
 傘松の下も、川の渡しも、猿山も隣の爺様と同じようにいったが、猿酒が飲みたくな
って、
「その酒を地蔵にも飲ませろ」
と大声で言ったら、猿達はびっくりして、
「偽の地蔵だ」
「化け地蔵だ」
「死んだ仲間を盗んだ地蔵だ」
と、ひっかくやら、かじるやら、爺さんは身体中血だられになって、ほうほうの体で家
に帰った。どっとはらえ。

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