10 兄の心
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
昔、あったのです。ある処に、大きな金持ちの長者様がありました。其処の長者様に八
十ばかりの爺様ジサマが居って、男の孫を三人持っていました。
 そして、孫三人のうち、兄が少し足りなくて、二番目と三番目が利口な孫でした。爺
様は兄へ竈カマド(家督)を譲るに一寸チョット労イタワしいなと思って考えていました。
 爺様は考えました。三人の孫を側に喚んで「この竈は、心掛けの良い者に譲る」と思
っていたので、
「お前達はどう云う心がけを持っているのか、いま聞いて見る」
と言って、三番目の孫から聞いて見ました。
「富士の山程高く、金が欲しい」
と言いました。爺様は、
「ああ、良い心掛けだ。二番目、お前はどう云う心掛けを持っているか」
と聞きました。そうしたら、二番目の孫は、
「海の水を掛ける程、田が欲しい」
「うん、これも良い心掛けだ。兄、お前はどう云う心掛けを持っているか」
と聞きました。そうしたら、兄は、
「牛ベコの金玉を三つ欲しい」
と云いました。爺様は、
「うんにゃ、そう云う心掛けがお前か。そんな牛の金玉三つも持って何にする」
と云いました。
「要らざる口へ、一つずつや」
と、兄はこう云いました。爺様は「どう云う訳だろうか」と考えました。
 「何のために言ったのか」と考えました。三人の口に捻ネジをかる(塞ぐ)ために、そ
う言ったのだろう」と考えました。
 「兄は賢サカしくない」と思っていたが、「矢っ張り、兄は兄の心だな」と思って、兄
に竈を譲ることにしました。
 どっとはらえ。

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