09 武士サムライと娘(湯瀬・花輪)
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔、あったのです。
 昔、盛岡の町に一人の武士が居ました。
その武士が「このままではいけない」と思って修業に廻りました。花輪の方へ行こうと
思って歩いて来ました。湯瀬の下へ来ました。湯瀬の神様がお経を読んで居た処へ来ま
した。武士は「俺オレのことも言うかな」と思って、立って聞いていたら、言いました。
「盛岡の何の何某ナニガシと云う武士は、花輪の舟場フナバの娘と縁結び」
と言いました。この娘はどう云う娘なのかは、誰も知らないし、早く行って見て来ると
思って行きました。花輪へ着いて、
「舟場は何処ドコだろう」
と訊いたら、
「舟場は、こっちだ」
と言うので、其処へ連れて行って貰いました。そうしたら、子供達がいっぱい遊んでい
ました。
 
 子供達は、
「橋むらの誰かの子で、仕舞いだ」
 それで、其処へ行って近寄って見たところで、とっても見臭いミグサイ娘っこで、「これ
と俺が結ばれては詰まらない」と思いました。それで、「石をぶっつけて殺してやれ」
と思いました。それで、角石カドイシをぶっつけました。
 隠れて見ていました。「大変だ、血がいっぱい出るし、このままては居られない。医
者様に連れて行かなければならない」と思いました。そうだけど「話していると責めら
れる」と思いました。そのまま、行ってしまいました。
 
 ずっと廻って、盛岡へ来て暮らしていました。好きでない嫁カガアを貰ったが、嫁には
行かれるし、一人ぼっちで困ったなと思っていました。そこへ、花輪の友達が来て、
「お前は未だ、こうして一人で居たのか」
「どうもうまくなくて、好きでない嫁を貰ったが、離れて居たのだ」
「一人で居られないのだ」
 そうしている間に、三十四にもなってしまいました。
「一人で居られないのだから、俺が嫁を授けて呉れる」
「そうしたら、頼もうか」
と言いました。
 
 尋ねて貰ったら、矢っ張り花輪からでした。
 連れて来た娘を見たらの自分が石をぶっつけた女子オナゴでした。「ああ、悪い女子だ
が、どうしようかな」と考えているうちに、女の子供を持ってしまいました。持った子
供が四つになってしまいました。そして、母オガさんの頭を弄イジるようになりました。
「母さん、頭に髪が無い処がいっぱいあるでないか」
「俺はな、小さいとき、武士が来て頭に石をぶっつけてね、俺は危アブなく死ぬところで
あったのだ。死なないでね、こう云う処へ来ているのだ」
 
 武士が庭に居て、その話を聞いていて、
「ああ、あの見臭い女子は、俺の処へ矢っ張り来たのか」
 「矢っ張り、神様が結ばせたのだろうか。今まで詰まらない生活をして居ったな。こ
れから子供のためにも楽しい暮らしをしなくてはならない」と、庭で考えていました。
 子供のために、楽しい暮らしをしなければならないのです。娘と云うものは、神様の
授けでないとだめだと云うことです。
 どっとはらえ。

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