08a 上方カミガタ参マイり(花輪)
鼻穴から、
「やーい」
と叫びました。そしたら、
「あーい」
と返事しました。見たら桶屋が入っていました。
「んにゃ、お前どうして鼻の穴へ入っていたのか」
「俺は、ああやって、こうやって、土の医者へ行って、上へ上がる薬を貰って飲んだら、
土の上に来て、止まらないで此処ココまで来てしまった」
「んにゃ、ほんにほんに困ったことをしたな」
「そしたら、跳ねて来い。みんなで風呂敷を出すために」
三人して、
「これに、跳ねて来い」
と言ったので、それで大仏様の鼻穴から、
「ぼーん」
と跳ねました。また、その風呂敷も破り、土も破り、また土の底へ、べろり入ってしま
いました。「これは大変だ。どうしたら良いだろうか」と思って、また、病院へ行きま
した。
「んにゃ、先サッキダはあんまり上がるに遅く、一回勝負にみんな口へ入れてしまったと
ころで、上がり過ぎて、奈良の大仏様の鼻穴へ入ってしまったのでね、そこで跳ね下り
たところで、また、こっちへ来てしまったので、今度はちゃんと土の上に止まる薬っこ
呉れて下さい」
「困った人だな。そしたら粉薬っこやるために、僅ワズかずつ嘗めって行け」
「はい」
と言って、この粉薬っこを嘗めました。先よりも遅い奴で、またまた遅くなって、「ん
にゃ、これだと、これは何時までかかったら、上へ上がるのか、だめだ」と思って、「
ぼっほり」と口に入れてしまいました。
さぁ、そうしたところで、前よりも早くなって、ぐんぐんぐんぐん上がりました。何
と奈良の大仏様だか何だか越して、空まで行ってしまいました。
「空へ行って大変だ困った、空まで来てしまった。どうしたら良いだろうか」と思い
ました。空を歩いて行ったら、家位クライの人が居ました。
「んにゃ、こうして俺は空まで来てしまった」
と言いました。そしたら、家位の人が、
「そうだったら、俺の家へ婿ムコになって呉れろ」
「んにゃ、婿になれと言われたって、上方参りに来て、こうしているのだ」
「何言っているのだ、良いから何たって俺の家へ婿になれ。此処へ来れば、もう行くこ
とは出来ないのだ」
「それなら、お前の家の商売は何なのだ」
「俺の家はな、雷様や、俺は太鼓叩タタいて歩く人で、これはな、車の吹き出し、ほらこ
れは娘で鏡を振り差して、稲妻イナヅマを光らすので、お前は水掛けになって呉れろ」
「下へ降りて行けないのなら、仕方が無い。そう言うのなら婿になる」と思いました。
そこで車をガラガラガラガラと、空の上を車を曳いて走る人は走る。太鼓をドンドンド
ンドンと叩く人は叩く、また嫁っこになった人は鏡をデラデラデラデラ振り回しました。
男は、
「もうこうなったんだ、俺は水掛けだ」
と言って、ドワドワドワドワと掛けました。
なんだか、体がヒヤヒヤヒヤヒヤとなって来ました。それでハァッと目を醒まして見
たところ、夢を見て、寝小便をごっそり垂れて眠っておったのだと云います。
それでね、あまり上方参りのような、出来ない事を望めば、そう云うことになるため
に、出来ない事は考えるではないぞ。
どっとはらえ。
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