08 上方カミガタ参マイり(花輪)
参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
昔、昔。
花輪のある処に、ごんき桶屋オケヤと云う桶屋がありました。
その桶屋は小さいときから、上方参りに行きたいものだ、他の金持ちの人達は、みん
な上方参りに行くけれども、俺も一回は行って見たいものだと思いました。
その桶屋は、小さいときから一生懸命、辛抱シンボウして金を貯めました。年頃になって
上方参りに出掛けました。ずっと行って東京へ今着く頃になった処で、大きな旅館ヤドに
泊まりました。旅館に泊まったいたところで、朝間になって起きて見たら、自分が持っ
て行った銭ゼンこが、ゴソッと無くなっていました。
「さあ大変だ。銭こ盗まれた。困ったな。これが無くなれば、俺は家へ戻ることも出来
ないし、上方参りにも行くことも出来ない。大変だ。どうしたら良いだろうか」
と思って青くなって寝ていました。
そこで泊まっていた処で、銭こを盗まなければならないと思いました。其処ソコの旦那
ダンナさん方が寝ていた処へ忍ぶ気になりました。階段をそっと上がる気になったら、流
し(場)の方から、
「誰だ。誰だ。誰だ」
と云う音がしました。これは不思議だと思って、そっと行って見たら、流しの裏の方に
部屋があって、婆様バサマが眠っていました。婆様は眠っていて、ぐうぐうと眠っていた
が、
「誰だ。誰だ」
と音がしていました。何だか変だと思ってよく見たら、婆様の尻ケッツが鳴っていたのでし
た。これだと、何か捻ネジをした方が良いと思いました。流しの方へ行ったら、大根があ
ったために、大根を削って、それで婆の尻に捻をしました。
今度は良いだろうと思って、旦那さんの部屋の二階へ上がって行こうと思いました。
階段を上がる気になったら、
「どーん」
と弾ハジけてしまいました。
「でで、でで、でで、でで」
と高く鳴りました。大根で捻をしたのが弾けてしまって、大きな音がしたのでした。旦
那さん方も、皆起きてしまって、何事だと思いました。旅館の人に、
「何をして、こうして居るのか」
と言われました。そこで、
「俺は夕べ、あの泥棒に入られてしまって、銭こを盗まれた。一文も持たなくなってし
まった。家へ行くことも出来ないし、どうにもされません。どうしたら良いだろう」
「んにゃ、まず、どうしようもない。此処で働いたら良いだろう」
「何の商売だ」
と言ったところで、
「俺は桶屋だ」
と言ったら、そこで、
「近所に、大きな酒屋で桶コガを結ユう処があるために、其処へ行って稼いだ方が良い」
「はい」
と言って、其処で使って貰うことにしました。行ったら、
「お前はどのような桶が結えるか」
「どんな、どんな、大きい桶でも結える」
「それなら、この桶を結って呉クれろ」
何石ナンゴク入れなのか、大きな桶を結うことになりました。桶を結って箍タガを締めて、
桶の上に上がって、
「そら、もっと締めろ。もっと締めろ」
と箍を締めていたところで、あまり強く打ったら箍が「バーン」と弾けました。そこで、
自分が隣りの六階だか七階だかの屋根に飛ばされてしまいました。下りて来ることが出
来なくなって困っていたら、下でみんなが出て来て筵ムシロを敷くやら、布団を持って来る
やらして、
「此処へ跳ねて来い」
と言いました。其処へ、
「ぼーん」
と跳ねました。そうしたら、布団だか筵だかを破って、また土の底へ、べろり下りてし
まいました。
その男が、
「さぁ、大変だ。土の底まで来てしまった。今度上に上がるのに大変だ」
そう思って、其処いらを巡って見たら、土の底の村の役場へ行って、聞いてみたら良
いだろうと思いました。そして、役場へ行きました。
「俺、桶コガを結っていたら、箍タガが弾けて、六階の屋根まで飛ばされたので、跳ね
下りたら土の下まで潜ってしまいました。どうしたら上に上がって行けるだろうか」
と言いました。そうしたら、役場の人が、
「それならば、病院へ行って、薬を貰った方が良いだろう」
と言いました。そこで病院へ行って、
「上に上がる薬を呉れて下さい」
と頼みました。そうしたら、
「この薬を飲め」
見たら、飴玉見たいなものを三つ呉れました。
「これを一つずつ嘗ナめっていれば上がるために」
そこで、飴玉見たいなものを口へ入れました。
あまり上がるのが遅くて、もどかしい位遅いために、これなら何時になったら上がれ
るのだろうかと思って、三つとも一回に口に入れてしまいました。
そうしたら、今度は早くて早くて、「ぐんぐんぐんぐん」上がりました。土の上に来
たが止まらなくなりました。何処ドコまでも上がりました。上がった処が奈良の大仏様の
鼻穴へべろりと入ってしまいました。「んにゃ、これは大変だとうしたら良いだろう」
と思いました。
奈良の大仏様の鼻穴に入ってじっと下を見ていたら、長嶺ナガミネの人達が上方参りに来
ていました。そして大仏様を一生懸命に拝んでいました。下シモの家の爺様とか、松館の
爺様とか、一本木の爺様とかが一生懸命に拝んでいました。
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