05 末娘と蛇(毛馬内)
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔、昔。
 娘三人を持った父エデと母アッパがありました。五月も来て田植えになったが、何時イツ行
っても田には水がいっぱい入っていませんでした。
 父は田の畔クロへ行って、独り言を言いました。
「田に誰かが水をいっぱい入れて呉クれれば、俺は三人娘を持っていたために、何ドレで
も一人呉れるけれどもな」
 
 次の日、田へ行って見たら、どの田も丁度良く水が入っていました。
 そこへ、
「それは、俺が入れたのだ」
と、背の大きい色の白い男が来ました。それは白い大きい蛇でした。
 そして、その男は、
「娘を呉れると言っていたので、水を入れたのだ」
と言いました。父は、誰だって蛇のところへ嫁にと言う奴は居ないと思って、寝ていて
起きませんでした。
 何ナンぼ「飯ママを食え」と言っても、寝ていて起きませんでした。
 
 先に姉娘が行ったら、
「俺の言う事を聞いて呉れれば、俺は起きるし、そうでなければ起きない」
と言いました。
「何をしたのか」
と姉娘が言ったら、父は、
「俺がな、こうして田に水を入れれば、俺の娘を呉れると言ったら、蛇が水を入れて呉
れた。お前が蛇のところへ嫁に行って呉れれば、俺は起きる」
い言いました。
「誰が、俺が行くか(俺は行かない)」
と言って、枕をボップリ踏んで、姉娘は行ってしまいました。
 二番目の娘にも言ったら、
「誰が、蛇のところへ行くか」
と言って、行ってしまいました。
 
 「三番目の娘であと一人だ、誰が行って呉れるのか」と、苦しくして、何もかも心配
していました。
 三番目の娘が来ました。
「父よ、起きて飯を食え」
「俺の言う事を聞けば、飯を食うし、そうでなければ、俺は飯も何も食わないで死なな
ければならない」
「何をしてなのか」
と娘が言いました。
「俺は、こうして田へ水が入らないために、田へ水を入れて呉れれば、俺は娘を呉れる
と言ったら、水が入っていたのだ。それは蛇だった」
「良い、俺はそうであれば行く」
と娘が言ったので、父は安堵ユックリして起きて、飯を食いました。
 
 日にちも経って、娘は嫁っこに行くことになりました。そうしたら娘は、
「俺には何も要らないから、糠ヌカを入れた俵を千俵支度して下さい。後は何も要らない
ために」
と言いました。父は糠を入れた俵を千俵を支度しました。そうしたところで、その日、
家に留まっていたら、蛇が迎えに来ました。俵を蛇に運クバらせました。千俵を運らせた
そうです。
 蛇の居る処は沼でした。その沼へその糠俵を入れなければならなかったのは、それは
(嫁を)島に隠さなければならないためでした。糠俵を沈めようと思って、尾っぱで以
ておっつけ、頭ハッケで以ておっつけしましたが、糠俵はなかなか沈みませんでした。その
うち、蛇は疲れてしまって、死んだようになりました。そして、その娘は家へ戻って来
たと云うことです。
 どっとはらえ。

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