134 村の中に出たいたずら狐
 
                       参考:鹿角市発行「十和田の民俗」
 
 昭和二十年頃の冬の事でした。末広小学校が火事に遭い、用務員をしていた姉の家族
は、松山の下外れにNさんと云う製材所があって、そこの家を借りて住んでいた。姉の
処は女と子供ばかりであったために、夜になれば俺が泊まりに行っていました。
 
 その頃、村に悪い狐が出て、山から下りて来ては、鶏を捕ったり、人をだましたりす
ると云う噂があった。俺も未だ十四才位で子供だったために、友達を誘って出かけた。
友達の処へ寄ったら、
「先に行ってろ」
と言うので、真っ暗な道を一人で歩きました。小学校の焼け跡辺りに来たとき、足元を
スーッと行った物があったために、『狐だな……』と思って、おっかなくなって、
「ワン、ワン」
と犬の真似をしてやりました。それから暫くして、製材所の辺りまで来たら、急に今ま
でよりも、真っ暗になってしまって、足元も見えなくなった。
 
『どうしたことだろう』と思っていたら、ずっと向こうの方に、杉の木が一杯立ってい
て、そこに灯りがポツンと見えました。
『あっ、あそこだ!』と思って、雪を漕いで歩いていたら、後ろの方で、
「三郎三郎(仮名)、どこへ行くのやー」
と、友達の声がした。びっくりして振り返ったら、姉の家の前辺りに友達が居て、俺と
こを呼んでいた。
 
 そこは、製材所だったために、杉の林なんかある筈はなく、杉の丸太が山のように積
み重ねられていた。狐の野郎は、俺に犬の真似されて、驚いて逃げたために、怒って俺
とこをだましたのだろう。
 そのいたずら狐は、それから何日かして、正八(仮名)様の溜に入って死んでいたと
云う。年取った狐であった。その狐が死んでからは、松山の村の中に狐が出たと云うこ
とは、聞かなくなった。(松山)
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