131 チャッコと狸の話
 
                       参考:鹿角市発行「十和田の民俗」
 
 昔、昔あったのです。
 ある所に、優しいお母さんが居りました。お母さんは一人で暮らしていたので、チャ
ッコ(猫)を一杯飼って育てていました。
 毛馬内の市日に、お母さんは買い物に行ってくるからと、クロ、ミケ、トラ、ニケ、
シロ、タロ、タマを側によんで、
「お母さんは毛馬内の市日に行って、煮干ッコを一杯買ってきてやるから、お利口さん
にして居ろよ。森の狸タヌキが来ても、決して戸ッコを開けるなよ」
としゃべりました。チャッコ達は、コックリうなずき約束しました。
 
 お母さんが出かけて間もなく、森の狸が来ました。
「チャッコ達、お母さんだよ、戸ッコを開けろ」
としゃべりました。チャッコ達は、お母さんが早く帰って来たと思って、戸ッコを開け
てしまいました。クロちゃんだけは、『今、お母さんが行ったばかりなのに、市日から
未だ来る訳はない』と思って、隠れました。
 森の狸は、ミケ、トラ、ニケ、シロ、タロ、タマを一息に呑み込んで、森へ逃げて行
きました。
 クロちゃんはおっかなくって、じっと隠れながら、お母さんとこを待っていました。
暫くして、お母さんが来て、びっくりしてしまいました。
 
 「クロ、みんなはどこへ行った?」
と訊きました。クロは、森の狸が来て、みんなとこを一呑みにして行ったことを教えた
ら、お母さんは急いで、森へ行ってみました。森の狸は、大きな腹をして、グウグウ眠
っていました。お母さんは、包丁で腹を切って、チャッコ達を助けてやりました。そう
してな、狸の腹に土を一杯詰めて、森に埋けてきました。
 お母さんは、チャッコ達を綺麗に洗ってやり、
「今度からは、ちゃんとお母さんのしゃべったことを守れよ」
と言い聞かせ、毛馬内の市日で買ってきた煮干やお菓子を、一杯食べさせてやりました。
どっとはらぇ。(松の木)
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