128 メノキノルマタ『殺』
参考:鹿角市発行「十和田の民俗」
昔、ある処に一人の旅人が居ました。長い道を歩いているうちに、すっかり日が暮れ
て、真っ暗になってしまいました。
『どこかに止まる宿ッコがないだろうか』と思って、山の中を歩いていたら、ずっと向
こうの方に、灯りッコがポツンと見えてきました。旅人は大急ぎで、やっと宿ッコに辿り
着きました。
「一晩、止めて下さい」
と言ったら、
「泊まれ」
と、婆様バサマが出てきて、しゃべりました。
旅人は、ほっとして座敷へ入りました。そこの宿ッコには、赤ん坊が居ました。あん
まり赤ん坊が泣くために、子守りッコで負んぶして外へ行きました。そうしたら、真夜
中の静かな山の中に、奇妙な子守歌ッコが聞こえてきました。
「ネンネコヨーネンネコヨー。コノヤノアルジハ、ネンネコヤーメノキノルマタデ、ネ
ンネコヨー。メノキノルマタ」
と、歌っていました。
旅人は、『メノキノルマタ』と云う言葉を、これまで聞いたことがなかったので、
『何のことだろうか……』と考えました。
やっとそれは、『殺』ということだと気が付き、旅人は、その子守りッコに手を合わ
せ、真夜中に、こっそりと逃げ出し、命拾いをしたと云う。どっとはらぇ。(毛馬内)
[次へ進む] [バック]