126 サチコ狐と岩の下のユキコ狐
参考:鹿角市発行「十和田の民俗」
神田シンタの親類の法事の帰りのことでした。
昔は、食べ残したご馳走は、藁ワラのツト(苞、入れ物のこと)に入れて持ち帰りまし
た。
その日は、法事であったために、油揚げも一杯ツトに入っていました。
ササッパナと云う所の川縁を歩いて来ると、ガッサガサと音がしました。『おや?』
と足を止めると、川をポーンと跳ねて、一匹の狐が、オド(男の大人)さんの前に、あ
ぐらをかいて座りました。オドさんは、酒は飲まなかったので、酔ってはいませんでし
た。心の中で、『この狐は、サチコ狐だな……』と思いました。
この辺りには、何時もサチコ狐が出るとの噂がありました。そこで、オドさんは、
「お前は俺をだませ、俺もお前とこをだます」
と、狐に言いました。オドさんは、提灯チョウチンを前に差し出しました。するとサチコ狐
は、『とっても、とっても、かなわないー』と思ったのか、川を跳ねて逃げて行きまし
た。
岩の下のユキコと云う狐は、人をだますようなことはしない狐でした。
「コンコン」
と鳴けば、赤ん坊がどこかの家に生まれ、
「ジャゲ」
と鳴けば、火事になる……と、何時もその鳴き声で、近くの村の人達に教え事をしてい
たと云う。(丸館)
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