124 あべのせいめいの話
 
                       参考:鹿角市発行「十和田の民俗」
 
 昔、昔あったのです。
 ある男が、
「まんまかねあっぱほしい(ご飯を食わない妻が欲しい)」
と、何時も言っていました。それを聞いた狐が化けて、嫁ッコに来ました。そして、可
愛い男の子を産みました。名前を「あべのせいめい」と付けました。
 
 あるとき、狐は男の子にしっぽを見られてしまいました。『これは大変だ、正体を見
られてしまった』と思った狐は、
「乳を飲みたくなったら、しのだの森に来てくれ」
と、書き置きを残して、姿を消してしまいました。
 乳を飲みたくて泣くと、男はあべのせいめいを連れて、しのだの森に行ったのでした。
乳を飲ませるときは、狐の姿ではなく、優しい綺麗な母の姿になって乳を飲ませました。
 ある日、狐はその男に、
「今まで、本当に世話になったな。お礼にこの帽子を上げる。これを被れば、何でも判
るからな」
と、一つの不思議な帽子をくれたそうです。
 狐と別れたその男は、その後も、あべのせいめいと二人で仲良く暮らしていました。
 
 あるとき、隣り村の家に不幸なことばかり続いて、どうしたものだか……と、長者は
毎日心配していました。病気は、どのようなことをしても治らないし、良いことは何に
もありませんでした。そのことを聞いた、あべのせいめいと男は、狐から貰った帽子を
被り、隣り村の長者の処へ行きました。
 
 そうしたら、不思議なことが見えました。
「縁の下に、蛇と蛙が喧嘩しているから、それを取り除けば、病気は治る」
と、長者に言った。長者は、いくら言っても、『貧乏者の男とあべのせいめいの言うこ
とをなど信じない』と、言うことを聞かなかったそうです。あべのせいめいと父親が、
あきらめて帰ってから、何日経っても、長者の病気は悪くなるばかりで、さっぱり治り
ませんでした。
 
 そこで長者は、あべのせいめいとその父親に言われたことを思い出し、試しに、縁の
下を掘ってみました。そうしたら、やっぱり蛇と蛙が喧嘩をしていました。長者はびっ
くりして、
「本当だ、居た!」
と言って、蛇と蛙を取り除きました。
 そうしたら不思議なことに、病気も嘘のように、すっかり治って元気になったそうで
す。
 あべのせいめいと父親は、長者の家に喚ばれて、お礼に、沢山の金や銀などのご褒美
を一杯貰って、それからは、二人で幸せに暮らしました。どっとはらぇ。(大欠)
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