123 狐の姉様
 
                       参考:鹿角市発行「十和田の民俗」
 
 昔ある所に、百姓をしていたオド(父)がありました。
 あるとき、山へ薪タキギを取りに行きました。一生懸命稼いで薪も取れ、晩方には少し
早いが、家へ行こうかなと思って、山を下りて来ました。薪を背中に沢山背負って、
『どっこいしょ、どっこいしょ』と、山を下りて来たら、道端から僅か離れた木の下に、
狐ッコが居て、手前(自分)の体に、木の葉ッコをペタペタと貼っていました。オドは、
『何をするのかな』と思って、隠れて黙って見ていたら、木の葉ッコを暫く貼っていた
けれども、それを止めたのかなと思ったら、クレッと、ひっくり返りました。そうした
ら、綺麗な姉様アネサマに化けました。
 
 そうしたら、狐が化けた姉様は、スタスタと向こうの方へ歩いて行きました。オドが
思いました。『狐の奴は姉様に化けて、どこへ行くのだろうか。後を付けて行って見よ
うかな』と思って、背負っていた薪をそこへ下ろして、狐の後をどこまでも付けて行っ
てみました。辺りが薄暗くなってきました。ずっと行ったら向こうの方に、灯りッコが
ポッと見えてきました。その灯りッコを目当てに姉様は、ドンドン歩いて行きました。
そうしたら、灯りッコが点いていた家で、嫁取り振る舞いだかなんだか一杯人が集まっ
て、ガヤガヤ騒いでいました。その家へ姉様がペロッと入って行きました。
 
 オドが考えました。『狐の奴は、姉様に化けて、嫁取り振る舞い(ご馳走)を食うに
行ったな。みんなに教えて、だまされないようにしてやれ』と思って、そこの家のホエ
ドカグヂ(入口の脇)の処まで行って、ホエドカグヂの処から、面ツラッコを出して、
「その姉様は狐なので、だまされるな」
と叫びました。
「その姉様は、狐なのでダマされるな」
と、何回も叫びました。
 
 幾らか時間が経ったのだろうか、そうしたら後ろから、
「おいおい、お前は何をしているのか」
と肩を叩く者がありました。オドは、『オイ』と思って振り向いて見たら、隣りのオド
が後ろに立って笑っていました。気が付いて、今度はよく見たら、振る舞いに来た人も、
どこへ入ってしまったのか、誰も居なくなって、シーンと静かになっていました。
 そうしたら、オドは、死んだ馬のケッツ(尻)に面を押っつけて叫んでいたのでした。
 狐と云う奴は、一人でだますから、狐にはかまうもんでないのだ。どっとはらぇ。
(風張)
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