119 狐にだまされた話(花輪)
 
                    参考:鹿角市発行「花輪・尾去沢の民俗」
 
 八幡平の奥山で炭焼きをしていた頃のMさんのお話です。
 今から四十数年前(1950年頃か)のことでした。炭焼き小屋の側を一匹の子狐がそろ
そろと歩いているのを見たMさんは、ちょっと驚かしてやろうと、近くまで来るのを、
そっと草かげで待ち、急に大声で、
「うわっ、うわっ」
と。狐は一目散に逃げて行きました。
 
 その夜、Mさんが寝ていたら、
「カチ、カチ、カチ……」
と何物かが歩き回る音に目をさましましたが、そのうるさい音が一晩中続き、眠ること
が出来ませんでした。次の日の夜は、今度は小屋のすぐ近くで、大木に楔クサビを打ちつ
けるかん高い音が一晩中続いて、とうとうその晩も眠ることが出来ず困ってしまいまし
た。
 寝不足のため我慢出来なくなったMさんは、自宅へ猟銃をとりに行ってきて、小屋に
戻り、枕元に立てかけて寝たそうです。そうしたら、その晩からは何ごともなく、ぐっ
すり眠ることが出来たということです。
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